八 供養

「――おい、俺たちはもう帰って良いのか?」

「ええ、もう用はないから」

「うーわめっちゃぞんざい……っとそうだ、ねぇ君たち」

「なーにー?」

「鏡隠しの犠牲者……あの魚に食べられてしまった子たちの遺品って何か無いかな?出来れば弔ってあげたいんだけど……」

「おい日森、そいつらは――」

「だったらこれ、もっていって」

そう言って鴉は日森に小さな灯籠を渡す。

今までどこに持っていたんだ、そんなもの。

「ここを出たらじんじゃの人にわたして」

「わ、分かった」

「あっちの方をまっすぐ行けば出られるよ」

「そうか、行くぞ日森」

「は、はい!えっと……ありがとう!」

「お兄ちゃんたちばいばーい」

「またあそんでねー」

あの鴉ども呑気なことを言いやがって、と愚痴るのは止そう。

今はこの森を無事に出ることが最優先だ。


「――ねぇ深鴉みあ

「何?」

鴉夜あやのこと、あのお兄さんに詳しく話さなくて良かったの?」

「良いの、わざわざ話す必要もないし」

「でも鴉夜は深鴉の――」

「そんなこと話しても向こうが困るだけ、だから話さなくて良いの」

「……深鴉が良いって言うなら別に良いんだけどさ」

「えー、私は納得いかないなー」

「僕もー」

「……そういうのを余計なお世話って言うのよ」


「…………出られた。出られました!無事に出られましたよ影丘さん!」

「嬉しいのは分かったから騒ぐな、鬱陶しい」

日森の気持ちは分からないでもないが本音を言ってしまえばこうもあっさり帰れたのは予想外も良いところで、てっきりもう一つか二つ厄介ごとに巻き込まれるとばかり思っていた。

「……変に警戒しすぎたってことにしておくか」

「何がですか?」

「何でもねぇよ、お前はさっさとソレの供養してもらえ」

「あっはい、えーと……いたいた、すみませーん」

ちょうど良く傍を通りかかった宮司に日森が声をかけ、ざっくりと事情を説明して灯籠の供養を依頼すると二つ返事で承諾された。

「良いのか……いや、良いん、ですか?そんなあっさり……」

「鴉からの預かりものを無碍には出来ませんから」

「……どういうことですか?」

「この神社の奥にある森には不思議な鴉たちが住んでいて、森で迷った人を送り返すついでに届けものをさせるのです。私どもはその届けものを鴉からの預かりものと呼んでいるのですよ」

「へぇー……」

「いやちょっと待て、何でこの灯籠が鴉から預かりものだと分かるんだ?」

「一目見れば分かりますよ、これが人の手で作られたものではないことくらいはね」

「そう……なんですか」

「影丘さん、話し方めちゃくちゃになってますよ」

「うっせぇ」

色々と思うところはあるがきっちり供養してもらえるならそれに越したことはない。

後のことは宮司に任せてこの件はこれで終わりだ。

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