五 夜咫神社
「――あった、これだ」
記事の執筆に向けて集めた資料の一つ、夜咫神社ノ歴史。
俺の記憶が正しければここに目当ての情報が載っていたはずだ。
夜咫神社は
寺ではなく神社が建立された理由は土壌の問題で墓地を作ることが困難だったため、という説が有力である。
なお洪水の犠牲者の大半を占める十歳未満の子どもたちは今も行方知れずのままとなっている。
「……見つけてもらえなかった、ってのはそういうことなんだろうな」
あの子たち――洪水で犠牲になった子どもたちは遺体が発見されなかったために正しく弔われないまま忘れ去られ、今もこの森の中で彷徨い続けている。
何ともやるせない話だ。
「影丘さんを探すのもそうだけど、あの子たちの方も何とか出来ないかな……」
遺品の一つでも見つけられれば後で供養してあげられるのだけど。
「……あ、そういえば」
ファイルをしまうついでに鞄の中を漁って取り出したものは二枚の
万が一の保険として持ってきたのに渡し損ねていたことを今になって思い出した。
「これ渡すの忘れてなかったら影丘さんは鏡隠しに遭わなかったのかな……」
まぁ事が起きてしまった今となってはただの戯言でしかないけれど。
「……あれ?」
鏡越しに見る風景と自分の目で直に見る風景を何度も見比べ、ある可能性に思い至る。
「もしかしてこの建物、肉眼じゃ見えないのか……?」
鏡には映っているのに実際の風景には存在しない建物があるなんてこと、普通はあり得ないけどこの森が異常な場所なら話は別だ。
「ここがあの子たちの言っていたお社、か」
どことなく夜咫神社の拝殿に似ているのは偶然、ということはないだろう。
きっと何かしらの関連があるはずだ。
「……って考えるのは後回しだ後回し」
今考えるべきなのはどうやってこのお社の中に入るか、だ。
「――見つけたぞ」
「見つけたって、何を?」
「かくれんぼだかくれんぼ、あいつらの中じゃお前も頭数に入ってたんだよ」
「ふぅん、そう」
興味なさげに呟き、また本に視線を落とす。
他の子どもは鬱陶しいぐらい人なつっこいのにこいつだけは酷く愛想が悪い。
まぁそれはそれとして、だ。
「今度こそ全員見つけたな?」
「うん、みんな見つかっちゃったー」
「お兄ちゃんすごーい!」
「ったく、小賢しいことしやがって……」
人の靴を隠したり参加の意思を示してない奴を頭数に入れたりと面倒なことばかりしてくれたお陰で随分手間を取らされた。
こっちはさっさと靴を見つけてここを出たいってのに。
「ねぇねぇ、あいつここに来た?」
「……来てないわ」
「じゃあまだねてるんだね」
「いつもすぐにはおきないもんね」
「……?」
あいつら何をコソコソ話して――
「これ、お兄ちゃんにかえすね」
「…………おい、これって俺の靴じゃねぇか」
しかも近くの棚から菓子を持ってくるぐらいの気軽さで部屋の奥から引っ張り出してきやがったぞ、このガキども。
「さぁ行こう!」
「はやくはやく!」
「な、何だいきなり……おい押すな!」
まるで状況が飲み込めない。
こいつらは何をそんなに慌てているんだ。
「こっちこっち!」
「ほらはやく!」
「だから押すなって……あん?」
ガキどもにせっつかれながら連行された先にあったものは裏口の扉。
さっきここを通り過ぎた時はかくれんぼに意識を割いていたせいで見落としていたのだろう。
「こっちで良いんだよね?」
「うん大丈夫、こっちで合ってるよ」
理由は分からないがどうもこのガキどもは俺を外に連れ出したいらしい。
それは俺にとっても好都合だからこいつらの望み通り、とっとと靴を履いてここと出るとしよう。
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