三 不帰ノ森
「うーわ全っ然見つかんねぇ……どこに行っちゃったんだよあの人……」
電話は繋がらないしメールも送れない。
拝殿の写真を撮ってる姿を見た人はいてもその後の行方を知っている人は誰もいない。
何も言わずに一人で帰る、なんて薄情なことをする人じゃないから体調を崩して倒れでもしない限り連絡がつかないなんてことは――
「――まさか、鏡隠しに遭ったんじゃ……」
ふと思い浮かんだ可能性に背筋が冷える。
きっとそうだ、そうに違いない。
何故なら鏡隠し――彼我見市で起きる神隠しは年齢や性別を問わず霊感の強い人が遭うもので、影丘さんは鏡隠しに遭う条件を満たしている。
影丘さんは強く否定してたけど、鷲子ちゃんの失踪も鏡隠しに遭ったからに違いない。
でなきゃこんな不可思議なことが立て続けに起きるはずが――
「いやいや落ち着け俺、影丘さんがいたら妄想が過ぎるって叩かれるとこだぞ」
とりあえずまだ行ってないところを探してみよう。
正味な話、あれこれ考えるのは探すアテが無くなって警察に捜索を依頼する段階になってからでも遅くはないワケだし。
「えーと、まだ行ってないのは……奥の森か」
そんなに広くなさそうだしすぐに回りきれる――なんて軽く考えたのが運の尽きだったのかもしれない。
「お、何だこれ」
森に入って最初に見つけたものは古ぼけた立て札。
何か書かれているようだけど文字が掠れているせいでかなり読み辛い。
「えーっと……ふ、き、の……いや、かえらずのもりって読むのかなこれ……」
不可能の不に帰ると書いて
「――いやちょっと待て、不帰の森って凄まじく不吉な名前だな!絶対ヤバい逸話あるだろこの森!殺人鬼の怨霊が出るとかそういう方向の奴!」
もし出てきたら記事のネタに使えそうだけど、そんなのと遭遇して生き残れる自信が微塵もない。
多分すぐ追いつかれて死ぬ、それはもう惨たらしく。
「……はぁ」
騒いで恐怖心を紛らわすのはこれぐらいにして、そろそろ先に進もう。
「影丘さーん、いたら返事してくださーい!」
まぁさすがにこんな入り口の方にいるとは思っちゃいないけど――
「おーにさーんこーちら、てーのなるほーうへー!」
「まてまてー!」
「こっちこっちー!」
無邪気な笑い声と共に森の奥へと駆け抜けていったのは小学生ぐらいの子どもたち。
――その子たちが幽霊でさえなければどんなに良かったことか。
「思った以上にヤバい所かもしれないな、ここ……」
霊感のない人間が幽霊を視認できる場合その空間は何かしらの異変が起きているとは影丘さんの弁だけど、つまりここは――
「いやとりあえずそれは一旦置いておくとして、だ」
さっきの子どもたちが向かったのは森の奥。
無策に森の中を歩き回るよりあの子たちを追いかけた方が賢明かもしれない。
「何か建物でもあれば良いんだけど……っ!?」
突然響いた物音に驚いて振り返ってみたものの、今なお吹き続ける強い風に木の枝が忙しなく揺れていること以外に意識すべきものは見当たらない。
「な、なーんだ、風の音、か……」
安堵して歩き出そうとしたその時だった。
「ねぇねぇ」
「ぬおあああああああ!?」
「わーお兄ちゃん声大きーい」
「………あ、あれ?」
いつの間にかさっき森の奥へ走って行ったはずの子どもたちが俺の周りに集まっている。
「もしかしてお兄ちゃん、まいご?」
「あ、いや俺が迷子なワケじゃなくて、寧ろ迷子になった人を探しているっていうか……」
「お兄ちゃん、まいごをさがしてるんだ」
「わたしたちが知っている子かな?」
「いや多分知らないって言うかまず子どもじゃないし……」
「大人もまいごになるんだ、へんなのー」
「ま、まぁ確かに変、なのか……」
変と言えば子どもの幽霊たちに囲まれて質問攻めに遭ってるこの構図も大概だ。
「とりあえずみんなでおやしろに行こっか?」
「さんせーい!」
「じゃあみんなできょうそうだー!」
「えっ、ちょ、」
困惑する俺をよそに子どもたちは元気よく走り出していく。
「お兄ちゃんも早く早くー!」
「のんびりしてるとおいてっちゃうよー!」
「か、勘弁してくれよ……俺走るの遅い方だってのに……」
とはいえあの子たちを見失うと正真正銘の迷子になりかねない。
ここは無理をしてでも追いかけないと。
「ずぇー……はぁー……」
ヤバい、息切れが凄まじい。
ここまで走ったのっていつ以来だったかな。
「わー、お兄ちゃんへとへとのばてばてー」
「何かかっこわるーい」
「よ、容赦ないな君たち……」
この子たちに疲れた様子がないのは幽霊だから、なのだろうか。
「おやしろはもうすぐそこだよー」
「もうすぐって……」
子どもの一人が指差す先は靄に包まれていて、お社があるようにはとても――
「お兄ちゃんのさがしてるまいご、みつかるといいね」
「わたしたち、みつけてもらえなかったもんね」
「えっ――」
それはどういうことだと聞く暇も無く、子どもたちは姿を消していた。
「……あの子たち、まさか」
確か夜咫神社が建てられた経緯は――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます