第2話
なんでキスなんかしてくるの? 私は風香じゃないのに。
深くなるキスに、やめてほしくて彼の胸を叩いたけど、両手を掴まれて片手で上に固定されてしまった。
角度を変えて何度もキスされて……唇が離れたときはチュニックもキャミソールも全て捲り上げられていた。
私はあとで入るからと言っても聞く耳を持たず、行為に及ぼうとする彼。
「誠志朗さ、やめて……っ!」
彼はいったい何をしているの?
どうして私はもっと抵抗しないの?
好きな人に身体をまさぐられて、嬉しくないわけがない。
あられもない声をあげるごとに、彼の行為が激しくなっていく。
半ば茫然としているうちにいつの間にか彼の手が止まっていて、丸洗いされた挙げ句、一緒にお風呂に入る結果になってしまった。なぜこうまで強引な行動を取るのかわからない。
また不埒なことをされるかもとビクビクしながら湯舟に浸かっていたけれど杞憂に終わり、温まってからお風呂をでた。のはいいものの、彼の着替えはその場にあるが、彼に不意をつかれたために、自分の着替えを用意していない。
なので、水滴を拭いたらバスタオルを身体に巻きつけ、寝室に飛び込むと箪笥から着替え一式を取り出して着替える。
ご飯を作る前に洗濯物を洗濯機に放り込むと、洗剤を入れてスイッチを入れる。あとは止まるのを待つだけだし、止まったら室内に干すだけだけれど、彼の服があるというのも不思議な感じだった。
ご飯はがっつりしたものが食べたいというので丼ものにした。親子丼にしようと思ったけれど鶏肉を買ってくるのを忘れてなかったので、豚肉と玉ねぎ、卵を使った他人丼。
万能ネギを小口切りにして散らし、余った玉ねぎとわかめでお味噌汁を作る。予備のお箸を出して料理と一緒に彼の前に置くと、「美味そう」と言って食べ始めた。
(どうして私を抱くだなんて言ったんだろう……)
ご飯を食べながらそんなことを考える。やっぱり風香か別の女性の代わりなんだろうか。
もしそうだとしたら、それはとてもつらいことだ。いくら好きな人でも、誰かの代わりに抱かれるなんて嫌だ。
けれど、私の身体は心とは裏腹に、彼にされたキスや行為を喜んでいて、どうしようもなかった。
テレビをつけて、いつも見ている男性アイドルグループのバラエティ番組を見ながら、黙々とご飯を食べる。ここに彼がいることが不思議でしょうがない。
私と彼の間にある接点なんて、せいぜいお隣同士でちょっと話したことがあるだけ。
あとは風香と一緒に勉強を見てもらったくらいだけれど、彼に対する気持ちと彼の風香を思う気持ちを見るのがつらくて、いつしかその場を離れ、勉強も風香と彼だけになった。
二人きりで勉強しているのが羨ましい反面、一緒にいるのがつらくて自分で逃げ出したくせにという気持ちの板ばさみになり、暴飲暴食でまた太ってしまった。
そんな自分が嫌でダイエットしようと思ったけれど、結局は長く続かない。
そんな意志の弱い自分が嫌いだった。
何度変えたいと思っただろう。
でも結局は変わることができなくて、ここまで来てしまった。就職してから動くようになって体重も落ちたけれど、それでもまだ身体は太い。
別に彼氏ができなくてもよかった。家は弟が継ぐし、姉もそろそろ結婚間近だからそのうち孫もできる。
喘息の薬を飲んでいるから、妊娠しても大丈夫なのかという不安もあった。
そのあたりは彼氏ができたら主治医に聞けばいいことだし、ネットで調べれば出てくると思う。
でも、彼氏がいないのにそんなことを調べても意味がないし、できたら主治医に聞けばいいことだと考えたのも事実。
(社交的ではない私を好きになるような奇特な人なんかいないだろうし……)
暗くなりそうな思考に軽く頭を振り、蓋をする。そんな私を、彼は不思議そうに見ていた。
ご飯も食べ終わり、洗い物をしていたら彼が後ろから抱きついてくる。
「ご飯、美味かった」
「……それはよかったです」
「明日も何か作ってよ」
「え……?」
その言葉に驚く。抱くと言ったことは冗談だと思っていたし、ご飯を食べたら帰ると思っていたのだ。
「か、帰るんじゃないんですか? 洗濯物なら、おばさんに届けますから」
「いや、帰らない」
「え……。で、でも、その……あの駅にいたのは、誰か……彼女さんとかに会いに来たんじゃないんですか……?」
「いや? 涼香ちゃんに会いに来た」
「どうして……」
「どうしてだと思う?」
そんなことを言われても、私にはわからない。だから首を横に振ったら、彼はクスリと笑った。
「あと、家を出て来たからしばらく泊めて」
「え……? あっ」
全ての洗い物を終え、それを伏せたらまるで作業が終わるのを待っていたかのように、うしろから私を抱きしめ、不埒な行為を始める彼。
「さっきの続きをしよっか」
「あ、あ、誠志朗さん、いやっ」
「止めないよ……涼香を抱くって言っただろ?」
「冗談……」
「俺はそんな冗談は言わない」
パジャマの裾から手を入れられ、胸を触る彼。
「あっ、やめっ」
「うん、さっきも思ったけど、感度はいいみたいだな」
ゆっくり開発して、俺の色に染めてやるよ――
悪魔のようなその囁き声を私に聞かせると、私の手を引いてベッドがある部屋へと行き、ベッドに押し倒してキスをされた。
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