第46話・突然の別れ
思い付く限りの場所を捜して回り、自宅でシエラちゃんからのメッセージメモを見た俺は、その内容にショックを受けたままお昼休みになって学校へ戻って来た。
「先生、シエラちゃんは見つかりましたか?」
俺が職員室用の下駄箱で靴を履き替えていると、相変わらずの心配そうな表情を浮かべた赤井さんが声を掛けて来た。
「それは……」
「もしかして何かあったんですか!?」
「いや、そういう訳じゃないんだが……」
「ハッキリ言って下さい! 何かあったんですか?」
「……実は――」
俺はシエラちゃんを捜してあちこちを捜したあと、戻った自宅で見たシエラちゃんからのメッセージメモの内容を話して聞かせた。
「えっ!? シエラちゃん魔界に帰っちゃったんですか!?」
「ああ、このメモにはそう書いてあった」
俺はポケットに仕舞っていた小さなメモ紙を取り出し、それを赤井さんに手渡した。
「『お父様から帰って来る様に言われたので、魔界に戻ります』これだけですか?」
「ああ、他にはメモ紙も何も無かったよ」
「そんな、お別れの挨拶も無しで帰るなんて……」
赤井さんは本当に悲しそうで寂しそうな表情を浮かべ、顔を俯かせた。明るさを体現している様な赤井さんがこんな感じになるところなんて、俺は今まで見た事もない。
「先生、シエラちゃんは戻って来ますよね?」
「……このメッセージ内容じゃ俺には判断がつかない」
「そんな事を言わないで下さいよ、だって先生はシエラちゃんが好きなんでしょ? 戻って来なかったら二度と会えないんですよ?」
「それは分かってる。だけどシエラちゃんは俺達とは違う世界の住人なんだ、向こうのルールや父親に呼び戻された理由が分からない以上、俺にはどうしようもない」
「どうしてそんなに弱気なんですか!? 『いざとなったら俺が連れ戻しに行く!』くらいの事は言って下さいよ!」
自分の言っている事が無茶極まりない事は、おそらく赤井さんも理解しているだろう。だけどそう言いたくなるのも分かる、俺だって出来る事ならそうしたい。
しかし世の中には本当にどうしようもない事が沢山あって、それは俺を含めたこの世に生きる全ての人達が、多かれ少なかれ経験しているはず。だからこそ諦めに近い思いが出てしまうのだ。
「……まだシエラちゃんが帰って来ないと決まったわけじゃないんだ、しばらくは様子を見よう」
大人はすぐにこういう気休めを口にする。それが子供の頃は嫌だったはずなのに、いつの間にか俺はそんな嫌な大人になっていた。
「…………分かりました、それとさっきは生意気な事を言ってすみません」
「いや、赤井さんの気持ちも言ってる事もよく分かる、だから謝らなくていい」
「はい……」
赤井さんの表情を見れば、納得していない事なんてすぐに分かる。でもここでこれ以上騒がないでくれたのはありがたい、騒がれても本当にどうしようもないから。
こうして俺と赤井さんとの間でしばらく様子を見るという事でこの場は落ち着いたが、それから二日が経ち、五日が経ち、一週間が経ってもシエラちゃんは戻って来る事はなかった。
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