第25話・彩光の中の笑顔

 派手な装飾をしているデコトラ野郎もビックリするくらいに派手な装飾がされた大型キャンピングカーに乗った俺達は、合宿先へと向かいながら赤井さんの説明に耳を傾け、同時に渡されたしおりに目を通していた。


「――と言うわけで、以上が今回の合宿の予定です! 何か質問がある方は挙手をお願いしまーす!」

「えっと、ちょっと聞いていいかな?」

「はい! 早乙女先生どうぞ!」

「今日のお昼に予定されてるチャネリングって何?」

「それはですね、ちょうど合宿先へ行く途中に有名なUFOの目撃スポットがあるので、そこで宇宙人に交信をしてみる予定なんです♪」

「な、なるほど……それじゃあ、今日の夜の樹海探索ってのは何?」

「その樹海には異世界へ通じる道があるとか、大きな黒い翼のある悪魔を見たとかの噂があるので、それらを探してみようかと思ってます!」

「異世界に悪魔ねえ……」


 異世界やら悪魔やら、そんなファンタジックな事が現実にあるとは個人的には思えない。だけど俺も教師である以上、それを真っ向から否定するのは気が引ける。生徒が何に興味を持つかは自由であり、それをどの様に突き詰めて行くのかもまた自由だからだ。

 そしてそれが悪い事や他人に迷惑をかける様な事で無い限りは、生徒が興味ある事やその好奇心を知って認めてあげるのも教師の努めだと思っている。しかし今回の場合は、少し口出しをする必要があるだろう。


「赤井さん、趣旨はよく分かったけど、夜の樹海探索は顧問として認める事はできないな」

「えー!? どうしてですか?」

「夜の樹海に入り込むなんて単純に危ないからだよ。赤井さんだってみんなが危険な目に遭ったら嫌でしょ?」

「うっ、確かにそうですね……分かりました、夜の樹海探索は無しにして、何か別の楽しい企画を考えます」

「うん、そうしてくれ」

「はい。でも私、結構思い付きとか勢いでこのしおりを作ったから、他にも危ないものがあるかもしれないので、三人でチェックを入れてもらっていいですか?」

「俺は最初っからそうするつもりだったよ」

「シエラちゃんもお願いできるかな?」

「うん、分かった」

「シルフィーナさんもお願いします」

わたくしでよろしければ協力させていただきます」


 こうして俺達はしおりの内容について赤井さんから説明を受けつつ、その内容を確認していった。そしてしおりの内容の確認と修正をした後、チャネリングとやらをする為にUFOの目撃情報がある場所の近くで駐車をし、俺達は大型キャンピングカーの広い室内でとても豪華な昼食を出してもらった。

 そしてこの時に初めて運転手が赤井さんのお姉さんである事を知り、俺達は遅ればせながらも丁寧に挨拶をした。本来なら真っ先にご挨拶をしなければいけない相手だが、お姉さんの愛里沙ありささんは妹以上に垢抜けた方で、『そんな事は気にしなくていいですから、沢山楽しんで行って下さい♪』と言ってくれた。

 こうして俺達は愛里沙さんを交えて楽しく昼食を摂り、その後でUFOの目撃情報がある場所で俺も巻き込まれる形でチャネリングを行ったのだが、結果としては宇宙人との交信どころか、UFOの姿すら見る事はなかった。


× × × ×


 一日目の夜、俺達は辿り着いた合宿先の近くにある浜辺で花火をしていた。『樹海探索の代わりにみんなで花火をしましょう!』と、赤井さんが唐突にそう言って来たからだ。


「先生! みてみてっ! 今度は青色の火花が出てるよ!」

「ホントだ、綺麗だね」

「うん!」


 シエラちゃんは花火をするのが初めてらしく、さっきからずっとこの調子ではしゃぎっぱなしだ。それにしても、この歳で一度も花火をした事が無いとか、実家ではよほど過保護にされていたんだろう。


「シエラ様、あまり騒いでは危ないですよ?」

「うん!」


 シルフィーナさんの言葉に素直で明るい返事をするが、シエラちゃんのはしゃぎっぷりは全く変わらない。まあ俺も初めて花火をした時はこんな感じだったから、危ない事をしない限りはこのままでいいと思う。

 それにしても、ここ最近のシエラちゃんは明らかに明るい笑顔を見せる事が多くなった。いったい何があったのかは分からないけど、とても良い事だと思う。


「シエラちゃん、凄く楽しそうですね」

「花火をするのが初めてって言ってたから、無理もないかな」

「そうなんですか? だったら花火をやる事にして正解でしたね、樹海探索ができなかったのは凄く残念ですけど」

「俺はこっちの方が安心して見てられるから助かるよ」

「でも不思議研究会の合宿は始まったばかりですから、明日もよろしくお願いしますよ? 早乙女先生」

「あー、えっとまあ、お手柔らかに頼むよ?」

「一応了解しましたと言っておきますね♪」


 そう言うと赤井さんは意味深な感じの笑みを浮かべた。この年頃の子はそれなりに無茶な事もするものだが、俺が付いていけない様な事や、危ない事だけはしないでほしいもんだ。

 赤井さんの言動に不安を感じつつも、俺は笑顔ではしゃぐシエラちゃんを見て心からの笑みを浮かべた。

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