第10話・悪魔少女の無垢な姿
「えっ!? 先生、シエラちゃんと一度もデートした事が無いんですか!?」
「あ、ああ、まあね」
放課後に不思議研究会の様子を見に来た俺は、シエラちゃんがトイレで席を外している時に赤井さんから、『先生達はデートっでどんな所に行ってるんですか?』との質問を受けた。そして俺がその質問に『デートはした事ないよ』と答えると、赤井さんは信じられないものでも見るかの様にしながら、驚きの表情を見せてそんな事を言った。
「一度もデートせずに結婚って、二人は出会ってからどれくらいで結婚したんですか?」
「うーん……確か二週間も経ってなかったかな」
「はわーっ、先生とシエラちゃんがスピード婚だったって話は噂で聞きましたけど、まさか一回のデートも無しで結婚してたなんて思いませんでしたよ。でも、よくそれでお互いに結婚しようと思いましたね」
「ははっ、そうだよね、やっぱりそう思うよね……」
――いつの間にか結婚した事になってたから――なんて言えないよな。
シエラちゃんといつの間にか婚姻関係になって数ヶ月が過ぎたとはいえ、俺はまだその事について納得をしたわけではない。でも、シエラちゃんと一緒に過ごす内に、今の生活も悪くない――と思い始めていたのも事実だし、色々な面で頑張り屋さんなシエラちゃんに少しずつ好感を持ち始めているのも確かだった。
「まあそれはそれとして、どうして先生はシエラちゃんとデートしないんですか? もしかして先生って、釣った魚には餌をあげない――ってタイプなんですか?」
「釣った魚って、別にそう言うわけじゃないけど、デートとかまともにした事がないから、そういうのがよく分からないんだよ」
「ふむふむ、なるほど…………だったらそんな先生とシエラちゃんの為に、私が一肌脱ぎましょう!」
そう言うと赤井さんは机の上に置いていた鞄を開けて中を
× × × ×
「シエラちゃん、準備はできた?」
「うん」
ようやくやってきた休日、俺達は余所行きの服に着替えて出掛けようとしていた。
シエラちゃんは先日、赤井さんと一緒に買い物へ行った時に買って来たという純白のワンピースに身を包んでいるが、これがとてつもなく似合っていて可愛らしい。そしてこの服を選んだのは赤井さんだと聞いたが、シエラちゃんの腰元まである長く艶やかで綺麗な黒髪と、真っ白なワンピースの組み合わせがとても素晴らしく、まさにナイスチョイスとしか言い様がない。
「よしっ、それじゃあ行こっか」
「うん」
シエラちゃんはベッドの上に置いていた小さな
今日は赤井さんの勧めもあってデートに行くわけだが、これがデートだとはシエラちゃんには言っていない。なぜなら単純に恥ずかしいという思いがあったし、何より知らない内に夫婦になっていたとはいえ、こんなオッサンとデートなんて聞いたら、若いシエラちゃんは嫌がるのではないかと思ったからだ。
「先生、今日行く水族館てどんな所? 何をするところなの?」
「シエラちゃんは水族館に行った事がないの?」
「うん、魔界にはそんなの無いし、悪魔学校に行く時以外はあまり外に出してもらえなかったから」
――相変わらずの悪魔設定だけど、やっぱりシエラちゃんて箱入りのお嬢様だったのかな。
「そっか……まあ水族館が何なのかを簡単に説明すると、海とかに居る水中生物を集めた場所で、その姿を見て楽しむ場所だよ」
「人間は水中生物を観察するのが楽しいの?」
「観察って言うか、海の生き物が泳いだりする姿を見て癒されたりするんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
「シエラちゃんは海を見に行った事はない?」
「一度だけシルフィーナやジョージと見に行った事があったけど、特に面白い場所じゃなかった」
――シルフィーナとジョージ? 誰だろう、実家の方のお友達かな?
「でも、海は綺麗だったでしょ?」
「うーん……どこを見ても真っ赤だったし、あまり綺麗とは思わなかった」
「えっ!? シエラちゃんの見た海って赤かったの?」
「うん」
――オーストラリアには赤い色の海が見れる場所があるって聞いた事があるけど、それの事かな?
「人間界の海は赤色じゃないの?」
「本来の海は赤色じゃなくて、綺麗な青色だよ」
「へえー、こっちの海は青色なんだね、なんだか不思議」
シエラちゃんの中二設定は出会ってからずっと続いていて、未だに魔界だの悪魔だのと口にする事がある。今となってはそれにも慣れたものだが、なぜここまで中二設定を続けるのかは未だに分からない。
でも今日は初めて二人で遊びに行く日だから、今日くらいはシエラちゃんの中二設定に少しは付き合ってあげようかなと思っている。どこまで付き合えるかは分からないけど。
「そういえばさ、魔界の海にはどんな生き物が居るの?」
「シルフィーナから聞いた話だと、魔界の海でよく見かけるのはカプカプだって言ってた」
「カプカプ? それってどんな生き物?」
「水中に落ちたものは何でも食べ尽くす魚だって言ってた」
「何それ!? 可愛い名前のわりにエグイ魚だな……」
俺はシエラちゃんの中二話に真面目に付き合いながら駅までの道を歩いた。
そして電車に乗ってからも色々な話をする事しばらく、俺達はようやく目的地だった水族館、海世界へと辿り着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます