八 残サレタ片割レ

「灼!」

「れ、煉?」

灯たちと別れて山を下りると、麓で煉が待ち構えていた。

「どうしてこんなところに……」

「どうしたもこうしたも灼が心配で追いかけてきたんだよ!」

「え、えっと……ごめんね……?」

「まぁ無事で何よりだけどさ……ん?」

後ろにいた東雲さんの存在に気づいた途端、煉の表情は怪訝なものに変わる。

「なぁ灼、その人誰?」

「え、えっと、この人は……」

「――私の名は東雲、故あって西塚くんと共にこの山を探索していた者だよ」

「は、はぁ……」

「ところで君は?」

「え、えーと……灼の家族です、一応」

煉の説明で何かを察したのか、東雲さんは僕の方に向き直る。

「……詮索はしない方が良さそうだね?」

「そうしてもらえると助かります……」

「ならこのままお暇させてもらうとするよ」

「あ、東雲さん!」

「うん?」

「えっとその……ありがとうございました」

「礼を言うのはこっちの方だよ」

「えっ?」

「それじゃあまたね」

突然感謝されたことを不思議がる僕をよそに、東雲さんは足早に去っていった。

「何かよく分かんないっつーか、不思議な人だな」

「でも悪い人ではなかったよ。……時々怖かったけど」

「ふーん、それで?この山で何してきたんだよ」

「……えっと、話さなきゃダメ?」

「ダメー」

「よ、弱ったなぁ……」

どうしよう、何をどこまで話せば煉は納得してくれるのかな。


「――あ、いたいた。おーい、匡伍きょうごさーん」

「……お前たちか」

西塚くんたちと別れた私を出迎えたのは暗条あんじょう照島てるしま――片や警察の制服姿、片やグレーのスーツを身に纏った男二人組。

何度見ても物々しい光景だ。

「番鏡山の調査は終わったのか?」

「ああ、原因を突き止めて解決してきた。あの山で怨霊による異変が起きることはもう無いはずだ」

「おおー、さすがは吾妻の――あいだぁっ!?」

余計なことを口走りかけた暗条の頭を殴って無理矢理黙らせ――たかったのだが失敗した。

「な、何ですかいきなりぃ!?」

こいつは一発殴ったくらいで黙るような奴じゃないことをすっかり失念していた。

「……お前の口が過ぎるからだ」

「だからって殴らなくても良いじゃないですかぁ……」

「妥当な対処だと思うがな」

「照島さんまで酷い!」

「喧しい。大体お前はいつも――」

毎度ながらこいつらは賑やかこの上ない。

「……それで、本命の用件は何だ?まさかただ迎えに来た、なんてふざけたことは――」

「言いたかったんですけどそうじゃないんですよねぇ、残念なことに」

「単刀直入に言ってしまえば協力要請だ。霊障案件解決に向けてのな」

「――毎度ながら仕事熱心だな、特殊零課の連中は」

「そりゃまぁ、迂闊なことをしたらあっさり死にますしね」

「……そろそろ本題に入るぞ」

「ああ、今回はどんな案件だ?」

「今回は――」

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鏡怪談 参:鏡児ノ話 等星シリス @nadohosi

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