七 懺悔
「……凄惨な光景だな」
目の前に広がる光景――焼け落ちた祭壇らしき建造物を眺めながら東雲さんは僕が抱いた感想と同様の言葉を呟く。
「もしあかりが逃がしてくれなかったら、僕たちはここで……」
「――そうだよ、僕たちはここで一緒に死ぬはずだったんだ」
「灯……」
「ねぇ灼、どうしてあの時逃げたの?僕たちは死ななきゃいけなかったのに」
「っ……灯、こそ」
気圧されちゃダメだ。
言うべきことをきちんと言わなきゃ。
「灯こそどうして……死ぬことに拘るの……?」
「みんながそう望んでいたから」
「みんな……?」
「お父さんも、お母さんも、大人も、子どもも、みんな僕たちが死ぬことを望んでた。だから僕たちは死ななきゃいけなかったんだ、みんなが納得する形で」
「それが……理由……?」
そんなのって――
「あまりにも惨たらしい話だ」
「何も知らない癖に、分かったような口を利かないでよ」
「灯――」
「ねぇ灼。僕と一緒に死ななかったこと、ずっと後悔していたんでしょ?だからここまで来てくれたんだよね?」
「……違うよ」
違うんだよ、灯。
「僕が後悔しているのは灯と一緒に死ななかったことじゃない」
後悔していることがあるとしたら、それは。
「灯が追いかけて来てくれると思って灯を置き去りにしたこと。十四年前からずっとそのことを後悔し続けて、灯に責められる夢を何度も見てきた」
夢の中で灯は僕にいつも同じことを問いかけてくる。
どうして僕を置いていったの、と。
「だから――」
「嘘、だ」
「……灯?」
「嘘だ、嘘だ、嘘だ!どうして、どうして、どうして!?」
酷く狼狽えた様子で灯は叫ぶ。
「分からない、分からないよ……僕と灼は双子で、何も言わなくても分かり合えるはずなのに……」
「……そんなの当たり前だよ。僕たちは双子で、鏡児で、顔はそっくりだけど、別の人間なんだからちゃんと言わなきゃ分かり合えない」
「っ……」
「だからちゃんと言うね。僕がここまで来た理由」
今度は自分から灯の傍へ歩み寄る。
「僕がここまで来たのは灯に謝るためだよ。今更謝ったところで灯は許してくれないだろうけど……それでも謝らせて」
頭を下げ、ずっと考えていた謝罪の言葉を口にする。
「ごめんね、灯。あの時置き去りにして。――ひとりに、して」
「…………」
「……灯?」
恐る恐る顔を上げると――
「…………あ、う、あ、ああ、ああああ、うああああああああああ……!」
十四年前、置き去りにしてしまった時と同じ姿の灯が泣いていた。
「灯――」
「――見ツケタゾ、鏡児ドモ!」
良い感じに迎えられそうだった幕引きの雰囲気を、突然響いた怒号が容赦なく破壊する。
怒号を上げた犯人はここに来るまでの道中、散々僕たちの行く手を阻んできた怨霊たちだった。
「こんなところにまで……」
「あ……や、やだ……こないで……っ!」
「灯?」
どうしてこんなに怯えて――
「鏡児ハ間引ケ、ドチラモ間引ケ」
「ドチラモ間引ケ、ドチラモ殺セ」
「殺セ、殺セ、殺セ!」
怨霊たちは殺意に満ちた言葉を繰り返し叫びながらじりじりと近づいてくる。
「どこまでもしつこい人たち。山と一緒に焼いてもまだ追い回してくるなんて」
「えっ?」
唐突に何の話を――
「――どうやら私が退治すべき怨霊はこいつらのようだな」
「東雲さん?」
「邪魔ヲ、スルナアアアァァァ!」
咆哮を上げながら怨霊たちは行く手を阻むもの――東雲さんの方に向かって走り出す。
「――全員纏めて消えろ」
それに対して東雲さんは一際冷たい声で呟き、怨霊たちに向けた手の中から眩い光を放つ
「っ……!」
強烈な光が怨霊たちを包み込み、それが消えた時には怨霊たちの姿が跡形もなく消え去っていた。
「これでもうあの怨霊たちが現れることはない。さて残るは――」
「必要ない」
そう答えたのはあかり――と瓜二つの女の子。
「君は……?」
「ひかり」
「……お前の姉妹か」
「うん」
「必要ない、というのは?」
「ここに留まる理由がもうないから、そうでしょ?」
「……うん、わがままはもうおしまい」
涙を拭い、灯は立ち上がる。
「灯……」
「ねぇ灼、僕たちまた一緒に生まれてこられるかな?」
「っ――」
そんなの、決まってるじゃないか。
「僕たちは次に生まれてくる時も双子の兄弟で、今度は一緒に生きるんだよ」
「……うん、そうだね。そうしようね」
今度こそきっと、絶対に。
「ばいばい、灼」
「……ばいばい、灯」
次に会う時は一緒に生まれた時。
それまでは――
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