四 灯
「えっと、次……はどこに行きます、か……?」
「山火事の火元である祭事の会場、かな」
「っ――」
やっぱりあそこに用があるんだ。
いや、そうでなければこの山に来る理由なんて――
「……大丈夫かい?顔色が優れないようだけど……」
「っだ、大丈夫……です……」
袖で冷や汗を拭い、平静を装ってみたものの東雲さんの表情は変わらない。
「……無理は禁物だよ、ただでさえここの空気は良くないからね」
「…………はい」
ごめんなさい、東雲さん。
無理をしてでも行かなければいけない理由が、僕には――
「見ツケタゾ、鏡児……!」
「また湧いてきたか……」
気怠げに呟きながら東雲さんは上着のポケットから何かを取り出す。
指の隙間から覗いているのは鏡の枠、なのかな。
「ドケ、オ前ニ用ハナイ……」
「悪いがこちらにはあるのだよ、お前たちを退治するという用がな」
「ガ、アア……!」
東雲さんが手に持ったものを翳すと全身が焼け焦げた怨霊は苦悶の声を上げながら消えていく。
「この手合いばかりなら対処も楽なんだがな……」
「あ、あの……」
「うん?どうかしたのかい?」
「えっと、大したことじゃ、ないんですけど……」
この際だから勢いに身を任せて聞いてしまおう。
多分適当に流されると思うけど――
「東雲さんって、普段はどんなことをしてるんですか……?」
「怨霊退治、と答えたら納得してくれるかい?」
「えっ」
予想通り過ぎた回答に思わず間の抜けた声が出る。
やけに手際が良いとは思っていたけど、まさか本当に――
「……すまない、今のは私の言い方が悪かったね」
「あっ、いえ、えっと……本当、なんです……よね?」
「冗談のように聞こえたかもしれないけど本当だよ」
踵を返し、東雲さんは山の頂上がある方向を見据える。
「この山のように怨霊が蔓延る場所へ赴いてそうなった原因を突き止め解決する、それが私の仕事……みたいなものだからね」
「変わった、お仕事……ですね……」
「よく言われるよ」
どこかうんざりした様子で東雲さんは肩を竦める。
何度も同じことを言われて飽き飽きしているのかな。
「……私も一つ、聞いて良いかな。答えにくいなら無理に答えなくても構わないよ」
「は、はい」
出来ればちゃんと答えたいけど、何を聞くつもりなんだろう。
「――西塚くん、君はこの山について何をどこまで知っているんだい?」
「っ……」
いずれ聞かれるとは思っていた。
いつまでも詮索しないでいてくれるとは思っていなかった。
――これ以上は、隠し通せない。
「…………僕、は――」
「灼」
「っ!!」
今の、声は。
「なっ……どういう、ことだ……?」
東雲さんが困惑するのも当然だ。
声の主――僕たちの目の前に佇む幽霊の姿は僕と瓜二つなのだから。
「……
「灼、やっと来てくれた」
嬉しそうに笑いながら灯は僕に近付いてくる。
「ずっと待ってたんだよ、どうしてすぐには来てくれなかったの?」
「っ……それ、は……」
「無理に答えなくても良いよ。――今すぐ死んでくれれば、全部許してあげるから」
「っ――」
身動ぐ暇もなく首を捕まれ、一気に締め上げられていく。
「っあ、ぐ……」
「止めろ!」
東雲さんが叫んだ直後、何が起こったのかすぐには分からなかった。
一瞬物凄く眩しくなって、その眩しさに怯んだ灯が手を離して、それから――
「邪魔しないでよ」
「怨霊の都合に合わせてやる義理はない、さっさと消えろ」
また、眩しくなった。
東雲さんの手の中で光っているのは鏡、かな。
「ちっ、逃げられたか……」
苦々しげに呟きながら東雲さんは倒れている僕の方に向き直る。
「西塚く――」
ああ、待って。
東雲さんが呼んでいるのに。
話さなきゃいけないことがあるのに。
意識が、遠のいて――
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