二 東雲
「…………あ、あれ……?」
目を開けることが出来る。
手や足を動かすことが出来る。
――生きている。
「どうして……」
「君」
「ひっ!」
突然呼びかけられたことに驚き、振り返ると同時に身構える。
「すまない、驚かせるつもりは無かったんだが……」
「……あ、こちらこそ、すみません……」
振り返った先に立っていたのは少し怖い雰囲気を漂わせる男の人だった。
「とりあえず怪我は無さそうだね」
「あ、はい……えっと、ありがとう、ございます……?」
「礼には及ばないよ。ああいう手合いは慣れているんだ」
「そう、なんです……か……?」
僕が状況を把握しきれていないせいで会話がちぐはぐになっている気がする。
この人がさっきのおじいさんを何とかしてくれた、と思って良いのかな。
「ところで君、その鏡は……」
「鏡……?」
ふと自分の手を見ると煉から借りた静霊鏡が握られている。
さっき身構えた時、反射的に取り出していたのかもしれない。
「こ、これは……えっと、家族から、借りたもので……」
「……そうか」
驚いた拍子に鏡を取り出す、なんて奇妙な行動を取ったことよりも僕が静霊鏡を持っていたことを気にしているように思える反応だ。
「……っと、そういえば自己紹介がまだだったね。私は……」
急に黙り込み、少し考え込んだ後その人は改めて口を開く。
「
「あ、ええと……
「西塚くん、どうして君はこの山に来たんだい?」
「え、えっと……」
どうしよう。
本当のことは話せないから、どうにか誤魔化さないと――
「……話しにくい理由があるのなら、無理に話さなくても良いよ」
「あ、ありがとう……ございます……」
察してもらえた、のかな。
凄く申し訳ないけどお言葉に甘えさせてもらおう。
「えっと、あの……」
「ん?」
「東雲、さんは……どうして、この山に……?」
「少しばかり調べたいことがある、とだけ答えておくよ」
「は、はぁ……」
僕もこれぐらいの返答が出来たら、煉や
「――西塚くん」
「は、はいっ!?」
「……君に不都合がなければ行動を共にさせてもらえないかな?この山には先程の老人と同じような怨霊が
「お、怨霊……です、か?」
「……もしかして気づいていなかったのかい?」
東雲さんの問いに小さく頷く。
昔から生きている人と幽霊の見分けがつけられなかったけど、火傷の影響で右目が見えづらくなってからは一層見分けがつけられなくなった。
さっきのおじいさんが幽霊であることに気づけなかったのはそれが原因だと思うけど、これをどう説明すれば良いのだろう。
「……だったら尚のこと君を一人にはさせられないな。互いの用事が片付くまで保護観察という体で同行してもらう……いや、させてもらうと言うべきかな」
「え、えっと……?」
一人で行くのは危ないから二人で行こう、ってことで良いのかな。
またあのおじいさんみたいな怖い幽霊が襲ってくる可能性を考えたら東雲さんの言うとおり、一緒にいた方が安全だろうけど――
「か、帰れって言わないんですか……?」
「今は君を一人にしないことが最優先事項だからね。――それに、帰る気は無いんだろう?」
「…………はい」
「故にこれが落としどころだと思ったまでだよ」
「はぁ……」
何というか、不思議な人だ。
「……ところで西塚くん、この山の地図を持ってないかい?実は用意し忘れてしまってね……」
「あ、それなら……」
大学の図書館で見つけた古いパンフレットをコピーしたものが早速役に立ちそうで良かった。
「え、ええと……い、行きたい場所って、ありますか?」
「そうだね、まずは……この休憩所かな」
そう言って東雲さんは地図に描かれた小さな建物の絵を隠すように指を置く。
入り口との距離感を見るに少し歩けばすぐ着きそうだ。
「じゃ、じゃあ……ここに、行きましょう、か……?」
「そうだね、行こうか」
休憩所に行ったら東雲さんの目的が何なのか分かるのかな。
多分僕とは何も関係のないことだとは思うけど――
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