夢幻鏡③
「……最近、妹の様子がおかしいんです。普段は天然……と言うか、ちょっと抜けたところがあるくらいの子なんですが、この頃険しい顔をして塞ぎ込んだかと思えば、ブツブツと独り言が始まって……でも、俺が声を掛けると何事もなかったように振る舞うんです」
アウラは饗庭一真の話を静かに聞いていた。
「……それが、夢とどう関係を?」
「そうです、それから、妹は毎晩のように夜中うなされてるみたいなんです。その悪夢が原因で、心的ストレスが溜まってるんじゃないかなって、心配で心配で……」
アウラは深く頷いた。
「それは、本人に直接会ってみないと明確にならないな。急ぎなら今夜にでも、家に御邪魔するよ。親の了解だけ取っておいてくれ。適当に、友達が来る、とか」
「あ、それは大丈夫です。俺、妹と二人暮らしなんで」
二人の目遣いが双方別々の意味で移り変わった。
「へえ……。いや、その辺の事情は不必要なら話す必要はないから、別にいいぞ」
「何ですかその目は。今、不純だとか思いませんでした? あ、何で目を逸らすんですか」
心なしか、饗庭一真の顔が赤らんだような気がする。アウラは僕に目を向けてきた。
「まぁいいや。ロウ、夕飯二人前、こっちに運んでくれ。シス……警官、お前も食っていくよな?」
「あっ、今シスコンって言いかけた! 絶対そうだ! くそっ……妹を大事にして何が悪い! 伊真(いさな)が可愛いからいけないんだっ!」
完璧に特大墓穴を掘っている彼の分までうどんを器に盛って、テーブルに運んだ。
「あ、有り難うございます、戴きます……って、あなた何でこんな小さい子に用意させてるんですか!」
「私は料理が出来ない。いいだろ、ロウが出来るんだから」
二人の視線が僕のそれとぶつかる。
「キミがロウ君? 大変だね、頑張ってね」
「は、はぁ……」
間違いなく勘違いされてしまったが、さしたる問題ではない。確かに僕は、見た目は子供だ。ただし、僕は『獏』なのだ。僕はアウラに力を貸して、アウラは僕に力を与える。利害一致、等価交換の契約関係。でも……。
「僕も家事まで引き受けた覚えはない筈なんだけどな……」
「家賃だ、家賃。気にするな」
アウラに上手く言いくるめられ、騒ぎの夜は更けっていった。
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