夢幻鏡
夢幻鏡①
――もういやだ
一体いつまで 私を呪縛し続けるの……?
―――そんなときはね……
アウラの鏡を覗いてごらん
雪のちらつき始めた十二月、日が暮れると外気は肌を刺すように冷たく、しかし道往く女子高生達はなおも素足を露にしながら歩いていた。
その様子をただ見つめている女性がいる。踝まで丈のある薄紫色のワンピースに、鍔の広い黒帽子。人目に立てども忍ぶことなど有り得ない姿だが、不思議と通行人は誰一人彼女を顧みることはなかった。彼女は腰まで伸びたチョコレート色の髪を揺らしながら、両手の平を並べた程度の大きさの鏡を抱えて歩いている。光の当たる角度の変化によって、あちこちに光を分散する、琥珀色の丸鏡。特別な飾り彫りはなし、見違える程のそれは、鮮やかさ、生命力。
「さあ、私の許においでなさい」
女が静かに言う。その見据える先には……何も無いのだが、女はただその空間に語りかけている。
「そう、私の鏡に触れて御覧なさい。そうすれば、貴方は全ての苦しみから解放される」
そんな光景を、遠巻きに凝視する影が、ひとつ。この辺りにある私立高校の制服を着た少女である。最初は驚いて目を見張り、次第に食い入るように女の行動を睨み、女が移動すると自分も後を追いかけた。そのまま、二人とも電灯の頼りない路地に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます