夢幻鏡

夢幻鏡①

――もういやだ

   一体いつまで 私を呪縛し続けるの……?


―――そんなときはね……

          アウラの鏡を覗いてごらん


 雪のちらつき始めた十二月、日が暮れると外気は肌を刺すように冷たく、しかし道往く女子高生達はなおも素足を露にしながら歩いていた。

 その様子をただ見つめている女性がいる。踝まで丈のある薄紫色のワンピースに、鍔の広い黒帽子。人目に立てども忍ぶことなど有り得ない姿だが、不思議と通行人は誰一人彼女を顧みることはなかった。彼女は腰まで伸びたチョコレート色の髪を揺らしながら、両手の平を並べた程度の大きさの鏡を抱えて歩いている。光の当たる角度の変化によって、あちこちに光を分散する、琥珀色の丸鏡。特別な飾り彫りはなし、見違える程のそれは、鮮やかさ、生命力。

「さあ、私の許においでなさい」

 女が静かに言う。その見据える先には……何も無いのだが、女はただその空間に語りかけている。

「そう、私の鏡に触れて御覧なさい。そうすれば、貴方は全ての苦しみから解放される」

 そんな光景を、遠巻きに凝視する影が、ひとつ。この辺りにある私立高校の制服を着た少女である。最初は驚いて目を見張り、次第に食い入るように女の行動を睨み、女が移動すると自分も後を追いかけた。そのまま、二人とも電灯の頼りない路地に消えていった。

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