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「え?」


 昨日まで一緒に話していたというのに、今日になってどうしてこんなことを言ってくるのだろう。

 嫌われることでも言ってしまったのかとタカシは自分を疑ってみたが思い当たる節がない。

 それどころか柳原はいたって真剣であり、本当に知らない人に声をかけられたかのように不安そうな顔をしている。


「なんだお前、やなぎっちに馴れ馴れしく声かけてんじゃねーよ? どこの組みのもんだ?」


 今度はいつもの聞き慣れた声が聞こえてきた。


「あれ? マサ? お前もう教室にいたのか、てっきり風邪で休んだもんだと。」

「あ!? この俺様が風邪なんか引くわけねーだろ。てか誰だよお前、よそのクラスに勝手に入ってくんじゃねーよ。」

「え、マサ、どうしたんだよ? いつも通り親友ネタはどうしたんだ? あ、飽きたから今度はツンデレネタなのか?」


 タカシは焦って訳の分からない解釈を始めるが、そんなタカシにマサトは。


「そもそもマサとか馴れ馴れしく呼ぶんじゃねーよ。それに親友ネタだ? 気色悪い。俺はお前なんて知らねーし初対面でそんなに馴れ馴れしくしてくるやつも嫌いだね。どっか行きな。」


 マサトはシッシと手でタカシを払うと、「なんなんだろうなこいつ?」「さぁ? なんでしょう?」と柳原とヒソヒソと話している。

 そうこうしているうちに教室の全員から視線を浴びせられていることにタカシは気づく。

 しかも、その視線は日常にはない異物を見るような視線である。


 タカシは訳がわからずついていけない。なにかクラス全員がグルとなったドッキリなのだろうか。

 しかし、自分がその場に存在していた唯一の望みを見つける。タカシの席がそのままそこに残っているのだ。


「じゃあ、ここの俺の席はなんでまだあるんだよ? それに昨日もおれはここに座ってマサと柳原さんと話してたじゃないか。」


 すぐさま指摘を入れる。

 だが、マサトからさも当然かのように言葉が返ってくる。


「ここには今まで誰も座ったことがねーよ、なんでもひと席余ってことで、俺が荷物いれに使わしてもらってるってだけだ。」

「!?」


 そう言ってマサトが机の中を見せるとそこには少年誌がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。

 タカシは少年誌は読まないし、そもそもタカシの入れておいた教科書はどこかに消え去っていた。

 いたずらにしてはたちが悪すぎる。机の中だってマサトが入れ替えたに違いない。

 そこでタカシは我慢の限界を迎えた。


「おいマサ、いい加減にしろよ?」


 そう言ってタカシはマサトの胸ぐらを掴んだところで、教室のドアが勢いよく開けられた。

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