1-11

 翌朝、いつも通りにスズに起こされ、朝食を作り、いつも通りに登校する。

 新たな家族はできたものの、それ以外は何気ない日常の新たな始まりである。

 スズは部活の朝練で先に家を出るので玄関まで見送ると。


「お兄ちゃん! いってきます!」


 スズの元気いっぱいのいってきますが、タカシの身に染み込んでいく。


「やっぱり朝はこうじゃなくっちゃな」


 昨日この声を聞けなかった分、今日はいつもの倍の幸せを噛み締める。

 スズを見送ってからタカシは、いつも通り朝食の片付けをして洗濯物を干したら学校に向かう。

 行きは下りであるため20分ほどで学校に到着する。

 学校の駐輪場に自転車を止めていつも通り後ろから気持ち悪い声が響いてくるであろうと構えていると。


「……?」


 しかし、いつもの声は聞こえてこなかった。


「あれ? おかしいな、いつもならこの辺りでマサが声かけてくるはずなんだけど、今日は風邪でも引いたかな?」


 ほっとする反面、毎朝のルーティーンとなってしまっていたこともあり何か落ち着かない。「でもまぁこんな日もあるさ」と自分を納得させてタカシは教室へと向かう。

 ただし、今日は教室へ入る意気込みが違う。タカシは昨日「今日こそは柳原さんにちゃんと挨拶をするんだ」と決めたからだ。

 与えられているばかりでは成長しない、今日からはきちんとこちらからも与えるんだと意気込んで教室のドアを開けて声を振り絞る。


「おはよう! 柳原さん!」

「……」

「あれ?」


 どうしたことか、勇気を振り絞って挨拶をしてみたものの返事がない。

 まさか、柳原さんも風邪で休みかなと思い、もう一度前を見てみると。

 柳原はちゃんと自分の席の左隣の席に座ってこちらを見ている。

 しかも、その柳原の口から信じられない一言が発せられる。


「……あの……? どちら様でしょうか?」

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