八 惨劇ノ真相

仲間外れにされても良い。

寄り添うものを得られなくても良い。

ただ静かに、穏やかに暮らしていたかった。

――それだけで、良かったのに。


「……ああ、ちょうど良いものがあった」

こっちにおいで、と手招きする明井さんの傍に行くと一枚の紙切れを手渡される。

「読んでみなよ」

言われるまま渡された紙切れに目を通す。

何か書いてあるみたいだけど、一体どんなことが――


鏡鬼を退治した霊能者の子孫である鬼代家は鏡鬼にかけられた呪いのせいで夭逝しやすい。

あるものは病で、またあるものは不慮の事故で命を落としていった。

その惨状を憂いた従者たちは仕える主の一族が少しでも長く生きられるように手を尽くし、ようやく辿り着いた対処法が他者を犠牲に呪いを移す方法である。


「他者を、犠牲に……」

そういえば九十九おじさんの日記にも同じようなことが書かれていた。

「っまさか、ここで十奈の呪いを……?」

でも十奈は――

「失敗、したのかな……」

「成功はしているよ、その上で惨劇が起きてこの有様なだけ」

「えっ?」

唐突に提示された情報に頭が混乱する。

「おさらいをした方が良さそうだね」

気のせい、だろうか。

さっきから明井さんの目がとても冷たいような――

「鏡鬼が死の間際に残した呪いは二つ。一つは自分を倒した霊能者――その子孫である鬼代家の命を奪う呪い」

「……その呪いのせいで十奈は病に苦しんで、俺は落盤事故に巻き込まれた」

「暮澤くんをこの屋敷から遠ざけたのはまた不幸に見舞われることを避けたかったから、だろうね」

「…………」

日記の内容を鑑みるに九十九おじさんは俺がこのお屋敷に来る度に複雑な感情を抱いていたのだろう。

落盤事故さえ無ければ俺は本当の両親と共にこのお屋敷で暮らしていたはずなのだから。

「そして十奈って子の方は他者に呪いを移す方法で助けるつもりだった」

「でも明井さんはさっき成功したけど惨劇が起きたって……」

「この屋敷の人間たちが犯した過ちは犠牲者の人選を間違えたこと。それさえ無ければこんなことにはならなかっただろうね」

「犠牲者の、人選?」

「彼らが選んだ犠牲者は鏡鬼が残したもう一つの呪いによって生まれたもの、鬼の児と蔑まれた赤い目を持って生まれてきたもの」

「――それって、まさか……」

「ここまで言わないと気づけないなんて、君は本当に勘が鈍いんだね」

酷く呆れた様子で溜め息を吐きながら明井さんは肩を竦める。

「静霊鏡、持っているよね。それ越しに僕を見てごらん」

恐る恐るポケットから静霊鏡を取り出し、明井さんの姿が映る角度を維持した状態で覗き込む。

「っ……!」

精霊鏡に映し出されたもの、それは――

「……回りくどいことをするのはここまでにしようか」

背筋が凍るような、冷たい声が暗い空間に響く。

「この屋敷で惨劇を起こした犯人――鏡鬼は僕だよ」

「ぐっ……!」

冷たい手に首を掴まれ、そのまま壁に叩きつけられる。

これが鬼の力、なのだろうか。

「僕が君と行動を共にした本当の理由を教えてあげるよ」

返り血で赤黒く染め上げられた着物を纏った鏡鬼は冷たい声でぼそりと呟く。

「真実を伝えた上で君を殺すためだよ」

「っ――!」

殺される。

九十九おじさんや使用人さんたちと同じように俺もこのひとに。

「抵抗、しないのかい?」

「……する必要が、無いですから」

「――そう、君はもっと賢明な子だと思っていたんだけどな」

「ぁ、ぐ……」

首を掴む手に力が込められ、息苦しさが増していく。

でも――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る