二 痕跡
痛い、苦しい。
どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの。
酷い、理不尽だ。
――ダカラ報イヲ与エヨウ。
鬼ナラバ、ソレグライ造作モ無イコトデショウ?
「あ、この鏡って確か
とりあえず入ってみた近くの部屋――このお屋敷で働いていた使用人さんたちが使っていたであろう寝室で見つけたのは掌サイズの丸い鏡。
裏側には掠れて読みづらいけど静霊鏡 作
「……ここにいる間だけ借りて、一通り片付いたら戻しておこう。うん」
言い訳がましい独り言をぼやきつつ静霊鏡をポケットに入れる。
気休めだとしても無いよりマシだ。
「さて他にめぼしいものは……っと」
何かを蹴った気がしたので足下に目を向けると、そこにはとんでもないものが落ちていた。
「えっ……何でこれ、こんな血塗れなんだよ……」
蹴ったものの正体は一冊の手帳。
元は白かったであろう表紙が血で赤黒く染め上げられた、誰がどう見ても曰く付きと判断するであろう代物だった。
「っ……」
正直言うとこんなもの触りたくはない。
でもこのお屋敷で何があったのかを知るためにはこの手帳を読む必要があるかもしれない。
「……ええい、ままよ!」
意を決して手帳を拾い上げ、血がついていない頁を開く。
さぁ鬼が出るか、蛇が出るか。
中庭の手入れをしている時、お嬢様が見慣れない男の子と一緒に遊んでいるのを見かけた。
後で先輩に訊ねたところ、あの男の子は旦那様の親戚の子どもで今日から暫くの間この屋敷で預かることになったらしい。
詳しい事情までは教えてもらえなかったけど、とりあえずその男の子が手の掛からない子であればありがたい。
ここ最近お嬢様の顔色がよくなった気がする。
やはりあの男の子が来た影響なのだろうか。
旦那様もお嬢様の元気な様子を見て嬉しそうにしている。
こんな光景を見るのは私がここで働くようになってから初めてのことだ。
あの男の子の親御さんがついさっき迎えに来た。
長いようで短い一ヶ月だった。
またいつか、あの子はまたここへ訪れる時が来るのだろうか?
もしその時があるなら今度は積極的に話しかけてみよう。
「ここで終わり、か……」
内容を見るに十年前、俺がこのお屋敷に預けられていた頃に書かれたものだろう。
「……もしかして、ここで何かあったのって――」
思い浮かんだ推測を口に出そうとしたその時。
「…………テ……」
「え?」
「…………ケ、テ……」
今、下から声が聞こえてきたような――
「……………ひっ!?」
「タ、スケ、テ………タスケ、テ……」
恐る恐る視線を落とすと血塗れの女性――の幽霊と目が合った。
服装を見るにこのお屋敷で働いていた使用人さんだろう。
「コロ、サレ……ル……ミン、ナ……アカ、イ……メ、ノ……オニ、ニ………」
その幽霊はこちらに向かって手を伸ばし、今にも消え入りそうな声で助けを求めながら消えていく。
「赤い目の鬼……どこかで聞いた覚えがあるような……」
かなり最近だったはずだけど、どこでだっただろう。
「……あ、思い出した。この間の民俗学の講義だ」
確か鬼に纏わる話がメインで、その内容が興味深かったから今度図書室で資料を漁ろうと思っていたんだった。
「そういえばこのお屋敷、結構広い書庫があったっけ」
昔は難しい漢字が多くて読めなかった本も今なら読めるかもしれない。
さっきの幽霊が言っていた鬼とは無関係の可能性は高いとは思うけど、一応調べるだけ調べてみよう。
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