鏡怪談 弐:鏡鬼ノ話
等星シリス
一 鬼代邸
「く、来るな!こっちに来るなぁ!」
「どうして……どうしてこんなことに……!」
ドウシテ?
今更ソンナコトヲ聞クナンテ、本当に愚カナ人タチダ。
コレハ、アナタタチノ浅ハカサガ招イタ結果ダトイウノニ。
「い、いやあああああぁぁぁぁ!」
マタヒトツ、声ガ途絶エル。
赤イ海ガソノ規模ヲ広ゲル。
マダダ、マダ足リナイ。
全員見ツケナケレバ、殺サナケレバコノカクレンボハ終ワラナイ。
「っひ……!」
――ミィツケタ。
「やーっと見つけたぁ……」
ようやく探し当てることが出来た。
十年前、夏休みの間預けられていた親戚の家で見つけた古びた鈴。
自宅に戻った後いつの間にか無くなっていて、定期的に探してはいたのだけど洋服箪笥の裏側は盲点だった。
「……何か、前より色褪せてる?」
さすがに十年近く放置されていたら変色ぐらいするだろう。
いくら揺らしても音が鳴らないところは相変わらずだけど。
「これを最初に見つけたのって確か、
あの時は俺が鬼で、十奈を探している時に訪れた倉庫でこの鈴を見つけた――という経緯だった気がする。
その少し後に使用人さんがおやつのマフィンが出来たと呼びに来て、十奈が大喜びで飛び出していったのを追いかけて――
「あー……そのまま鈴を見つけたこと自体忘れて持って帰っちゃってたのか……」
しかもそれを自宅で無くし、再度見つけるまでに十年も掛かるなんて間抜けが過ぎないだろうか。
「……そういえば十奈や
便りが無いのは良い便り、とは言うけれどさすがに十年もの間全く音沙汰が無いのはどうなのだろう。
今の今まで全く気に留めていなかった俺も大概だとは思うけど。
「うーん……軽く挨拶してすぐ帰ってくれば夕飯に間に合いそうか」
後回しにしたらまた忘れてしまいそうだし、こういうことは思いついた時にパパッと片付けてしまおう。
「うっひゃあ……やっぱり大きいなぁ……」
とにかく大きかったことはぼんやりと覚えてはいたけど、改めて実物を目にするとその大きさに圧倒される。
この地域――
十奈はこのお屋敷のお嬢様、ではあるのだけどそのイメージがイマイチしっくり来ないのは昔一緒に遊んだ時のやんちゃな姿が脳裏に強く刻まれているからだろう。
今はもうお嬢様と呼ぶに相応しい落ち着きを持った女性になっている、という予想をしてその変貌ぶりに驚きすぎないよう対策しておこう。
「インターホン……は無いんだっけ」
拳を作ってノックをしようとしたところで年季の入ったドアノッカーの存在に気づく。
「そういえばこんなのあったな……」
昔はいくら背伸びをしてもこれに手が届かなくて悔しい思いをしたものだ。
「……誰も出てこない」
苦情を言われてもおかしくないぐらいノックをしているのに何の反応も返ってこないなんていくらなんでも不自然だ。
たまたま長期の旅行に出かけているとかなら話は別なのだけど――
「鍵が、掛かってない……?」
旅行に出かけているなら開くはずの無い扉を開けることが出来るのはおかしい。
このお屋敷の中で何らかの異常事態が起きている、そう考えるのが妥当だろう。
「…………」
ここで俺が取るべき選択は警察に連絡をして家に帰り、真相が解明されるまで大人しくしていること。
――でも俺はそうしなかった。
扉を開き、お屋敷の中へと入ってしまった。
自分の目で確かめなければいけないと思ってしまった。
そんな愚かで軽率な選択をしなければ真実を知らないままでいられたはずなのに。
「うっ……」
最初の歓迎は酷く埃っぽい臭い。
玄関の時点でこれということは奥の方にある密閉された空間はもっと酷いことになっているのだろう。
「電気は……つかないか。とりあえず明るい内に――」
一応の行動方針を定めようとしていたその時、背後でばたんと大きな音が響いた。
「……え?」
振り返るとさっきまで開いたはずの扉が閉じている。
押さえが甘かったからか、突風でも吹いたのか、それとも――
突然扉が閉まった理由について色々と考えては見たものの、どれも鍵なんて掛かってないのにいくら押しても開かない現状を説明出来そうにない。
「……仕方ない、他の出口を探すか」
まずはそこから始めよう。
でないと本命の調べ物に集中出来そうにない。
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