第20話 気持ちとパンツは一心同体②

 入ってきたのは牡丹だった。

 買い物袋を片手にこちらを怪訝な表情で見つめている。


「………………何をしているんですか二人とも?」


「な、凪が俺のパンツを引っ張ってくるんだ!」


 無我夢中で奮闘する凪。まさかここまで恥ずかしがるとは予想だにしていなかった。


「見れば分かります。お兄様はそういうプレイがお好きなんですか?」


「そんなわけあるかっ!」


 牡丹の冗談めいた質問に上ずった声で否定をする。そんなしょうもないやり取りをしている間に俺のパンツは刻一刻と凪の手によってずり下げられていった。


「……じゃあ一体?」


「は、話せば長くなる。ま、まずは凪を何とか、してくれ」


 必死の説得がようやく伝わったのか牡丹がこちらまで歩いてくる。そして持っている買い物袋から一つのデザートが出てきた。


「…………葵先輩、ここにプリンがあるのですが食べませんか?」


 蓋を開けその中身をひとすくいする。

 スプーンの上で絶妙に揺れ動く黄土色からは濃厚なカスタードの匂いが漂ってくる。


(よ、ようやく助かる。あぁいう甘い系の食べ物にこいつは目がない……)


 そう確信づいてホッとしていると


「今両手が塞がってるので食べさせてください!」


 まさかの不意打ち宣言。パンツを引っ張りながらプリンを食べさせて貰うという二つの行為を同時にするとはどんだけ欲張りなんだとツッコミを入れたくなったが今は抵抗しているだけで手一杯だ。


「分かりました」


「いや、分かりましたじゃねーよ!!」


 しかし流石にこれはツッコミを入れざるを得なかった。もし、「なぜ?」と質問されてもうまく答えられないだろうがきっとこれは人間の本能的な何かなのだろうと俺は思った。


 数秒呆けたように牡丹がこちらの方を覗き込んだ。何を言われるのかと黙って見ていたらスプーンが急に凪から俺の方へと方向転換してきた。


「えーと、ではお兄様が食べますか?」


「俺が食べると思うか!?」


 食べたいのは山々だけど今はそういう状況じゃない。それに目の前に差し出されているプリンをよくよく見て分かった事がある。


(しかもこれ普通のプリンじゃないか! 俺はプレミアムの方が好きだ!)


「………………すいません、お兄様はプレミアムの方がお好きでしたか」


「え、何!? 心読めるの!? エスパー!?」


 俺の思っていることを偶然か必然かよく分からないが察知される。初めての事に驚きを覚え手の力が抜けそうになったが何とか耐えた。

 横を見てみるとそこにはもう牡丹はおらずドアに手をかけ開けているとこだった。


「今から買いに行って参ります」


「いや、先に助けーー」


 バタン。

 言いかけの最中でドアが閉まる。


「う、嘘だろ牡丹………? 牡丹ッッ!?」


 呼び止めようと声を出してみたが返事はない。

 もう向こうには聞こえていない、或いは聞く気がないのかどちらかは定かではないが一つだけ分かった事があった。


 俺の扱いが酷くなっている。


 そして部屋の中で俺達二人の醜い攻防が続いていく。


 するとまたドアが開いた。入ってきたのはーー

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