第8話 判断ができる大人になれ

 夕飯の買い出しに行こうと、見ていたテレビを切り廊下を歩いていたら玄関の扉がガチャっと開いた。


 眩しい光と共に葵達が吐き捨てるようにため息こぼしながら帰ってきた。


「疲れました〜」


「今お茶をお出しするので少々お待ち下さい」


「そんなに急がんでもええよ」


 額には少量の汗が太陽の光をうけて輝きながら頬をゆっくりと伝って流れていく。


 ……神秘的な光景だ。


 三人が靴を脱ぎ、リビングの扉を開け入って行こうとする。


 しかし俺は


「ちょっと待て」


 咳払いをしながら一番後ろにいる白乃だけを手で制した。

 すると彼女は腕組みをし、立腹の対象である俺の方を険しい表情で睨んでくる。


「なんや、どかんか」


「いや、なに白々しく家に入ってきてやがる」


「友達の家なんやからええやろ」


「ここは俺の家だ」


「知るかぼけ、さっさっとあっち行け」


 彼女は俺の話しにうんざりしたのか、しっしっとまるで虫を払うかのような手を向けてくる。

 メンタルが多少強いと思う俺も流石に心が折れそうになった。


 そりゃ、そんなのをやられてもおかしくない事をこの前してしまった……というか見てしまったんだが、それでも普通ここまで嫌ってくるものなのか?


「行こ、凪先輩、牡丹」



「あはは〜嫌われてますね」


「では失礼します、お兄様」


 二人はこちらに顔を向け、そして白乃に流されままリビングへと入っていった。


 俺はそれを尻目にした後、儚い気持ちで靴を履き静かにドアを開けて空を仰いだ。


「……俺が悪いのか?」


 そんな疑問を頭上高くにある眩しい球体に向かって嘆いてみるが、当然返事は返ってくるはずもなく肌を照りつけるような暑さだけが俺を蝕んでいく。


 そして一歩ずつ重たい足取りでスーパーへと歩き出した。



 * * * *



 テーブルの中央に置いてある小鍋から食欲をそそる香ばしい匂いが鼻に漂ってきて口からよだれが垂れそうになる。


 しかし目の前にいる彼女のせいでそれが段々と低下していき顔を引き攣らせてきた。


「…………なぜまだいる?」


 テーブルを挟んで俺の向かいに座っているのは白乃。だるそうに両肘をつき手を頬に当てている。


「夕飯食うからに決まってるやろ」


「あのな……」


 先程料理を作っていた時から薄々感じてはいたが、まさかここまで図々しいとは思わなかった。


「お兄様そう言わずに。白乃さんだって食材を持ってきてくれたんですから」


「そ、それならまぁ許してやろう」


「ほれ」


 白乃がバックの中から白い袋で包んだ何かを出し俺の前に置いてきた。


 俺はそれを両手でゆっくりと持って息を飲みながら開いていく。


 そして中から現れたのは…………どこかの人気ゲームで見た事ありそうな色合いのアレだった。

 その見た目に手足がゾクゾクし、不快な感覚が俺の全身を覆った。


「帰りに拾ったキノコや」


「本当に食べれるのか?」


 この前の葵のダークマターに比べればまだ劣っている方だが、それでも俺はこのキノコに畏れを感じたので聞いてみた。


 彼女は手を頭の後ろで組み、イスを揺らしながら答える。


「さっき一つカラスに食べさせてみたらそのまま動かんくなったから安心せい」


「安心できるかっ!」


「なっ、折角持ってきたっちゅうんに食べんつもりか!」


 彼女はテーブルに手をつきイスから立ち上がったので俺も同じようにして立ち上がった。


「お前は俺を殺すつもりか!」


「あぁ、しね!」


「やっぱりそうじゃねぇか!」


 俺は顔を顰めて彼女に反発する。

 言い争いが少しの間続き二人で揉めていると急に横からバンっという音が聞こえたのでそちらを見た。


 いつも冷静な牡丹が鋭い目つきでイスから立ち上がっていた。


「静かにしてください」


 その光景に気圧され、昂っていた感情が一気に沈んでいく。


「「……すいません」」


 謝罪の言葉を二人で言ってイスに座るとさっきまで置いてあったアレがなくなっていた。


「あれ、キノコがない?」


 俺はおかしいと思って、隣の牡丹に視線を向ける。


「私ではありません」


 とういことは犯人はもう一人しかいない。


「まさか……」


 俺はゆっくりと首を動かし白乃の隣に座っている人物を見た。


 そこには、頬を膨らませ何かを咀嚼している葵の姿があった。

 そしてそれをゴクンと飲み込み満足そうにこちらに顔を向けた。


「いやー、このキノコ美味しいですね」


「………………大丈夫なのか」


「たかがキノコですよ。大丈夫に決まっ

 て…………」


 やはりそれが危険なものだったのか、先程まで健康そうな色をしていた顔がみるみる青ざめていき、喉を抑えてバタンと床に倒れていった。



 数十分後、救急車が家に到着した。

 葵は「うぅ……」という呻き声をあげながら隊員達の人に連れられ病院まで運ばれていった。




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