永久に続く休暇とは、地獄の適切な定義である
紘介の会社は幸いなことに土日が休みである。
稼ぎが多いわけではないが、週に2日ゆったり休めるというのは少し幸福なことだ。
もっとも、休みだからといって紘介がやることは特にはない。
土日は起きるのが昼の12時を過ぎる。14時まで寝ることもあるし、一回起きた後に昼寝をすることもある。
起きて冷蔵庫の中をあさり、ブランチを食べると、あとはゲームをするか漫画を読むのが彼の通常の休みの過ごし方である。
彼は誰かといることが嫌いではなかったが、自分から男友達を誘って遊びに行こうとも思わなかったし、一緒に遊びに行く女性もいなかった。
数年前までは、友達と一緒に合コンに参加することもあった。
何回か参加したが、そこで知り合った女性は恋人になるどころか、二度と会うことはなかったので、特に意味はなかったと思っている。
いつかは結婚もした方が良いと考えているが、今である必要はない。
同年代の女性たちでは婚活に明け暮れている人も目立ってきたが、男性は焦って結婚する必要もないと思っていた。
世間では、少子化が問題視され、政治家が女性に子供を産んでほしいと失言して、問題になっている。
しかし、紘介が子供を2、3人持ったとして、それで社会が変わるとは思えない。
また、お国のために子供を作るよりも、今この瞬間の彼の絶望こそが、彼にとっての重要事項であることは間違いない。
けれど、彼は月曜になると30歳を迎える。
20代最後の土日がこれで良いのかという心は少しばかりは彼の中にある。
結局、彼の土曜日は一日中、漫画(それも、すでに読んだことのある)とテレビで終わってしまった。
朝が遅かったので、眠気も少ないが、1時には布団に入る。
携帯をいじっていて、寝付いたのは4時を過ぎたころだった。
休日は、仕事に行くよりも楽だが、とりわけ何の楽しみがあるわけでもない。
ただ、暇つぶしになりそうなコンテンツを消費していくだけだ。
将来、AIが人間の仕事を奪い、人間が働かなくなったとしても、漫画家は残るだろう。そして、漫画家などのクリエーターこそが、真のエリートになるかもしれない。
学校教育で月並みな人間を育て、その中で点数が上の人間を有名大学に通わせ、その中で選抜した人間が、官僚や弁護士、医者になっていく。
しかし、彼らの仕事の多くは、これからは必要なくなってしまう(彼らの多くは反発し、簡単にはなくならないかもしれないが)。
一方で、仕事を失い、機械が生産したものを消費して生活する人間が増える。衣食住は機械に任せておけば良いが、仕事を失い、(5憶年と言わないまでも)永遠のように長くも感じる時間を過ごしていくには、強力に興味を引き付けるコンテンツが必要だ。
そこで、学校教育などでは生まれない、他の人と異なる発想をする天才的なクリエーターが一番必要な存在になるだろう。
すでに、人気の高い漫画家は、サラリーマンの数倍、数十倍の収入を得ているけれど、この傾向が顕著になる。
ただし、未来の世界に貨幣なんてものがどれだけ必要なものかはわからないけれど。
機械に労働を奪われ、数十年の暇をつぶさなければならない人類というのは、果たして今の僕たちよりも幸福なのか。
紘介が仕事中に少しは絶望から抜け出せるように、仕事が忙しいというのは、時を忘れて熱中させてくれるものではある。
苦痛を伴うものではあるが、時には娯楽よりも娯楽らしくなり得るのだ。
しかし、そこまでの苦痛を伴いながら、時は消費しなければならないものなのか。
それであれば、今すぐに命を絶って、これ以上消費する必要をなくしてしまえば良いのではないか。
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