17. ストーミー・ジャンプ!

「まもなく、嵐の中でのストーミーパレードが行われます」

 場内アナウンスが流れた。え?この風雨の中で?


「三太さん、最初から見れますよ!見に行きましょう!」

「え!あ、はい!」


 僕は相田さんに引っ張られ、パレードを見るために外へ出た。

 出てみると、道の彼方から電飾に彩られた馬車や車とキャラクター達のパレードがやって来た。


 暴風の中、楽隊の音楽に合わせてキャラクター達が手を振って歩いていく。空を見ると渦巻く雲に稲光が時々走っているが、本当に大丈夫なのかこれは?

 風が吹く。ゴウゴウと吹く。キャラクター達が風に煽られフラフラしている。それでも気にせずに手を振っている。プロだなぁ……。


「あの!僕、相田さんに急いで話しておきたいことが!」


 僕は相田さんに話さなければならない。オカ先輩に帰る準備をして貰っていたことを。それを黙っていたことを。


「さっきのメッセージはオカ先輩なんです!」

「えっ?」

「今日、実はもう一つやることがあったんです。えーと……僕、元の世界に帰ります!」

「え?何て言いました?」

 風が強く、よく聞こえないのかもしれない。大きな声で話す。


「オカ先輩に元の世界に帰る方法を探して貰っていて、この間、先輩がそれをついに見つけたんです!」

「はい!」

「話すと長くなるんですけれど、台風が、その帰る一つの力になるそうで!」

「台風?」

「はい……僕はそれをあなたに黙っていました。今日、僕は帰ります!」

「……帰る?今日?」

「はい。オカ先輩が近くの神社で準備をしています。僕はそこへ急がないといけません。今が滅多に無いチャンスなんです」

「今、帰っちゃうんですか?」

「そういうことに……なります!」


 僕は相田さんの手を引いて、沿道傍の木の陰へ連れて行った。ここなら話がしやすい。


 相田さんは、僕を見つめて何かを考えている。


「相田さん、すいません、ずっと黙っていて。でも、僕はあなたとのディスティニーランドも凄く楽しみで……それは本当です!だから……それを言えずにいました。ごめんなさい!」

「そんな……帰ってしまうのに、デートをしたって言うんですか……」


 ああ、やはり僕はひどいやつなのかもしれない。


「帰ることをオカ先輩に頼んでいたことを忘れていて。……僕は相田さんに嫌われてしまったのを何とかしようと、無我夢中で、この間の式神のこととかやってしまったんです。気持ち的にやらずにはいられなかったんです!」

「そうですか……」

「僕が悪いんです。言わずにいた僕が」

「三太さん……せっかく仲良くなれたと思ったのに……」

「ごめんなさい!僕も、仲良くしていたいんです。でも……」


 僕は帰らなければいけない理由を相田さんに話した。もっとも、理由と言うのは確かではなく、推測と、僕の義務感から来るものなので、理由になっていないのかもしれなかった。


「……僕はこの世界の住人ではありません」

「それは……何となく理解しています」

「僕は何も用意せずに、こちらの世界にやって来てしまいました。あちらの世界がどうなっているのか、まずそれが心配です」


「そして、先輩曰く、ここに長く居続けることが出来ないようなんです。この世界の異分子である僕がここにいると世界がおかしくなるのだとか。つまり僕はここに居てはいけない存在なんです」

「一緒にいられないと……そんな……」


 スマホが鳴り、さらにメッセージが着信した。オカ先輩が「時間が無い、急げ」と言っている。

「三太さん、岡本さんからのメッセージですか?」

「そうです。時間が迫っていると言われました」


 ここで決めなければならない。

「僕は選ばなければなりません。何とか両立する方法を考えましたが、どうしても良い方法が浮かびませんでした。もう、どちらかを選択するしか無いんです」

「……」

「僕は……行きます!すいません!」


「待って!」

 僕が動こうとすると、相田さんが僕のジャケットの裾を掴んできた。

「私も……行きます……」

「え?」

「せめて、神社まで。見送りだけでも……ここで別れるのはイヤです……」

 彼女は少し涙ぐんでいた。僕は考えた。それはただ後にずらす、それだけなのだけれども。

「分かりました。一緒に行きましょう」


 もう既に時間が無さそうなので、僕はケイ子ちゃんを呼び出して移動することにした。


 呼び出すために人がいなさそうな建物の陰まで行く。

 そして、呼びそうとした時、あることに気付いた。


「ああっ、お酒が無い!」

 電車で移動しようと思っていたので、全く用意していなかった。

 周りを見渡す。レストランやカフェはあるが……もしかして?ここはお酒がないランド?


「相田さん、ここって、お酒売って無かったんでしたっけ?」

「あ、ランドは売っていませんね」

 あっさりと言われた。


 他の方法も考えてみたが見つからない。外に出てお酒を売っている場所を探すは時間がかかる。そもそもランドは広大で、出るだけでも時間がかかる。

 ……ここは怒られるの承知でツケで呼び出すしか?

 僕はポーズをとって召喚した。


「我ここに混沌の時空の化身を召喚せん!ケイオース!パワー!」


 もくもくと煙が湧き、ケイ子ちゃんが珍しく仁王立ちポーズで現れた。腕を組み、空を見上げている。白く長い髪が暴風に大きく靡く。


「この嵐っ!はははっ!良いなっ、ぬし様!力が漲るわ!」

「……ケイ子ちゃん!今ここにお酒無いんだけど?……ツケでいい?」

「え?無いの?えー……」


 指を咥えている。やはり不満そうだ。暴れないだけマシか?


「まあ、良い、後でくれろ。それに、今は大気にエネルギーが満ち満ちている。はははっ!気分が良い!」


 どうやら、嵐が彼女にパワーを与えているようだ。良かった。お酒は後でオカ先輩に頼もう。


「ケイ子ちゃん、急いで神社まで跳んで欲しいんだけど、行ける?」

「よいぞ。掴まれ」


 僕と相田さんはケイ子ちゃんの前に歩み出た。


「あれ、こないだのおなご。貴様も行くのか?」

「行きます!」

「いいのか?ぬし様よ?」

「オーケー!」

「何か小っちゃいのに文句言われそうじゃのー……まあ、よいわ。掴まれ」


 僕と相田さんはケイ子ちゃんの手をそっと掴んだ。光の煌めきが僕らを包んだ——。

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