八 合流

「……ここにもいなかったか」

まだ調べてない家はあといくつあっただろうか。

いやもしかすると入れ違いになっているのかもしれない。

「せめて連絡が取れればもう少し楽に合流出来たんだがな……」

この村に迷い込んだ時から携帯は電源すら入らなくなり、ただの荷物と化している。

故に足を使って地道に探すしか選択肢が無いワケなのだが――

「…………ん?」

今、何か蹴ったような――

「……っ!これは――」

足下から拾い上げたのは使い込まれて少し褪せた緑色の手帳。

間違いない、姉さんのものだ。

「何か足取りを掴めそうな情報は……」

ぱらぱらと頁を捲り、一番最近書かれたであろう部分で一旦手を止める。

きっとこれがこの村に迷い込んでから書いたものだろう。


森を探索していたはずなのにいつの間にか見知らぬ村に迷い込んでしまった。

折角なのでここも探索しておこう。

論文に使える何かが見つかればラッキーだ。


持ってきた地図と照らし合わせた結果、ここは四鏡村で間違いなさそうだ。

随分昔に自然災害で壊滅したとは聞いていたが大半の家屋が倒壊していること、人の気配が全く無いことからその話は真実のようだ。


比較的原型を留めている家に残っていた資料によるとこの村では鏡送りという儀式が行われていたらしい。

資料には見たことも聞いたこともない単語がたくさん使われていたため、この資料の内容だけでは鏡送りがどんな儀式なのか見当がつかない。

他の家を調べれば儀式について分かりやすく書かれた資料が見つかるだろうか。


資料も集まったのでそろそろ探索を切り上げて帰ろうと思ったが、あちこち探し回っても村の外に出られそうな道が見つからない。

そもそも私はどうやってここに来たのだろうか。

それすら分からない。


人が、いた。

いやあれは人と言って良いのだろうか。

もしかしてあれは幽霊、なのだろうか。

小さい頃、鷹也が幽霊を見たと言ってお父さんを困らせていたけど鷹也の目にはずっとあんな恐ろしいものが見えていたのだろうか。


どれくらい、時間が経ったのだろう。

時計の針は動いていないし空はいつまでも暗いままだ。

資料にあった常世の闇がこの村の時間を狂わせているのだろうか。

帰りたい、家に帰りたい。

お父さんとお母さん、鷹也に会いたい。


まだ追いかけてくる。

たくさんの幽霊が私を追いかけてくる。

どうしてあの幽霊たちは私を追いかけてくるの。

なんで、どうして。


この頁以降は何も書かれていない。

村を探索している時にこの手帳を落としたのかそれとも――

「……少なくとも姉さんがこの村に来ていたことは確定したな」

それだけでも充分な成果だ。

今は煉と沙輝を探すことに集中して――

「鷹也!」

「……沙輝!?」

驚愕したのは声の主が沙輝だったこと、だけじゃない。

その背後に随伴しているあれは――

「怪我は無い?幽霊に襲われたりしなかった?」

「お前の方こそどうしたんだ、後ろの……」

「……私のこと、よね」

沙輝に随伴していたもの――白い襦袢を纏った女の幽霊は憂うような表情を見せる。

「えーっと……話せば長くなるんだけど……」

「出来れば事細かに説明してくれ。事情を正確に把握したい」

「う、うん」

意図せず別行動になって以降に起きた出来事、道中集めた情報、件の幽霊――雫さんが随伴することになった経緯――端的に言って濃密すぎる内容だった。

一応俺の方で何があったか、どんな情報を集めたかを話はしたが沙輝の体験に比べると随分と薄味に思えてくる。

情報交換を経た上でとりあえずの結論を出すのであれば。

「どっちにしろあの巫女……水科華澄を探す必要があるというワケか」

「そうなるね……鷹也はそのお守りを華澄さんに渡さなきゃいけないんでしょ?」

「ああ、一応頼まれたからな」

そういえばあいつ――煉と同じ顔の幽霊の名前を聞き忘れていた。

まぁ特に不都合は無いしこのままでも構わないか。

「鷹也くんにそのお守りを託した幽霊、もしかしたら潤くんかも……」

「潤?」

「二人と同い年ぐらいの……」

不意に言葉を切り、雫さんは酷く驚いたような表情を見せる。

その視線の先にいたのは――

「えっ、潤くん……!?」

「…………まーたその名前か……どんだけ似てるんだよ、俺とその潤って奴……」

「……悪い、俺も一度見間違えた」

「えっ?」

しまった、今のは失言だった。

「おいそれどういうことだ鷹也」

「れ、煉ストップ、ストップ!」

「待て落ち着け煉、一から説明する」

合流という目標は達成出来たがこんな騒々しい形になるとは思いもしなかった。

とりあえず今は煉を宥めて事情を説明しなければ。

つまらない経緯で幽霊の仲間入りなんて御免被りたい。

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