七 雫
「きれい……というより殺風景って言った方がいいのかな」
あちこち調べて最後に着いた場所――離れの戸を開けて最初に出てきた感想がそれだった。
鏡の巫女を隔離するために使われていた場所だとしたらそうであることが当然なのかもしれないけれど。
「何かあるかな……」
中を軽く見渡すと文机の上に一冊の本が置かれているのが目についた。
「うーん……届くかな……」
この中に土足で上がり込むのは少し気が引ける。
少し身を乗り出して、手を伸ばせば何とか――
「横着をするなんて悪い子ね」
「え、」
今の声、どこから――
「…………あ」
手を伸ばした先――文机の前に白い襦袢を着た女性の幽霊が立っている。
もしかして今僕に声をかけてきたのは――
「――っう、うわあああああああ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「お、落ち着いて!何もしないから!」
土下座しながら謝罪の言葉を繰り返し叫ぶ僕に対し、その幽霊は少し慌てた様子で宥めるような言葉をかける。
「ちょっと驚かせようと思っただけなんだけど、まさかそんなにびっくりするなんて………」
「そりゃ確かに僕は人一倍大袈裟に驚くタイプですけど!そうじゃなくてもこれぐらい驚きますって!」
「え、えっと……ごめんなさい……」
ひとしきり叫び、幽霊に謝られたところでふと我に返る。
何をやってるんだ僕は。
「……僕の方こそすみません、取り乱してしまって。ところであなたは……?」
「私は今和泉雫。ここで死んだ……って話はわざわざしなくても良いかな」
「ここで……ってことは鏡送りの日が来る前に亡くなった……」
「……どうして鏡送りのことを知ってるの?」
「あ、えっと、この村から出る方法を探すためにちょっと調べまして……」
「……そういうことなら力を貸してあげられる、かな」
「ほ、本当ですか!?」
食い気味に叫んでしまったが、助力を得られるならとてもありがたい。
「でもまずは華澄ちゃんを見つけないと……」
「かすみちゃん……?」
知り合いの名前、だろうか。
「えっと、とりあえずそのかすみ……さんを探せば良いんですか?」
「うん、お願い出来るかな?」
「……分かりました、頑張って探してみます」
そう答えたところでふと疑問が浮かぶ。
「そういえば雫さんはそこから出られないんですか?」
「……本当は一緒に行きたいんだけど、ここを出てしまうと常世の闇の影響を受けておかしくなっちゃうから……」
常世の闇は幽霊――死して彷徨う霊魂に歪める。
雫さんが危惧しているのは恐らくそれだろう。
「何か予防策でもあれば……あ、」
そういえばちょうど良さそうなものが一つあった。
「もしかしてこれで何とかなりませんか?」
「これって……静霊鏡……?」
「魔除けのお守りだからもしかしたら効果があるかなって……思ったんですけど……」
差し出した静霊鏡を雫さんは恐る恐る受け取り、離れの外へ一歩踏み出す。
「……どうですか?」
「…………うん、平気みたい」
「良かったぁ……」
本音を言うと一人でかすみさんを探しに行くのが怖かったから雫さんにはついてきてほしかった。
「えっと……そういえばまだ名前、聞いてなかったよね?」
「あ、確かに……えっと、僕は
「沙輝くんね。じゃあ、一緒に華澄ちゃんを探しに行きましょうか」
「はい、改めてよろしくお願いします」
かすみさんを探すついでに鷹也と煉に合流出来れば良いのだけど、二人は果たして無事なのだろうか。
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