三 増池家
「この家……他に比べるとかなり大きいな……」
煉と沙輝を探している内に辿り着いたのは朽ちかけた屋敷の前。
表札には増池と書かれている。
「他に調べられそうなところもないし……ここに入ってみるしかないか」
引き戸が外れた玄関から屋敷の中へと足を踏み入れる。
さてどこから調べたものか。
出来ればこの村に関する資料が集められた部屋を見つけたいところだが。
「とりあえずこの部屋から見てみるか」
廊下を少し歩いた先で覗き込んだ部屋の中にはたくさんの本棚が並んでいる。
恐らく書庫だろう。
「……幸先が良いな」
この引きの良さが煉や沙輝との早期合流に繋がってくれれば言うことは無いのだが、無いものねだりをしても仕方がない。
「今読むべき本は……これか」
手に取った本の表紙には
どうやらここが四鏡村であることは間違いないようだ。
さて詳細は――
四鏡村は
水科と他三家は宗家と分家の関係にあり、四家の当主で話し合いを行った際の最終的な決定権は水科家の当主にある。
これは鏡送りを行う鏡の巫女の選定についても同様である。
四家の当主は中立の立場で鏡の巫女の選定を行うことを義務付けられている。
例えそれが血の繋がった家族に、親しき友人に犠牲を強いることになったとしてもその決定を揺らがせてはならない。
「…………」
一通り読み終えた本を閉じ、棚に戻す。
いくつかの家が一つの村を治める形態はそう珍しくないらしいが、四鏡村は四つの家――正確には水科が頂点を、他三家が補佐を務める形で治められていたようだ。
「
ふと脳裏を過ぎり、口を突いて出てきた言葉はそれだった。
尤も、オカルト雑誌に載せるなら村の慣習よりも心霊現象に関する情報だとは思うのだが。
「……現実逃避をしている場合か」
今考えなければならないのは煉や沙輝との合流、そしてこの村からの脱出だ。
姉さんの行方も突き止めたいがそれは二の次にしても良い。
その上で懸念すべきなのはあの巫女装束の女だ。
さっきは運良く逃げ切れたがもしまた遭遇した時は――
その時は、どうするべきだ。
静霊鏡は対抗手段として使えない。
これで撃退出来るのは弱い怨霊だけで、あの巫女装束の女に効果が無いだろう。
理想的なのはあの巫女装束の女と遭遇する前に村を脱出することだが、そう都合良く事が運ぶとは限らない。
これらを踏まえて練っておくべき策は――
「……いや、これはさすがに早計だな」
頭を振って自分を窘める。
少ししか情報を集めていない状態で最終手段を考えるのは浅慮な行動だ。
何をするにしても今はもう少し情報を集めるべきだろう。
そう考え直して別の本を取ろうとしたその時、割れた窓の向こうを横切る誰かの姿を視界の端に捉えた。
「…………煉?」
ほんの一瞬しか見えなかったがあれは間違いなく煉の顔だった。
「煉!」
行動を起こすのが遅かったせいか、窓の傍に駆け寄った時にはもう影すら見えなくなっていた。
「追いつけるか……?」
窓を横切った時の進行方向を確かめ、書庫を後にする。
調べ物は煉と合流した後に再開するとしよう。
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