第7話 『サイコ・ダイバーズ』と呼ぶ決まりだ

 十日後、かがりは学校が終わるやいなや、まっすぐ研究所にむかう聖を見つけて声をかけた。父、輝男から聖が今日で10日連続ダイブしていることを聞いていたので、聖の体調が不安で仕方がなかった。

「10日間連続って聞いたわ。大丈夫なの?」

「あぁ、おじ貴からの依頼だからね」

「うん、もう、お父さん、聖をこき使いすぎていると思うわ」

「日に日に患者数が増えてきているから仕方がないさ。それに全員救えたわけじゃない」

「うん、わかってる……。四人に一人は救えなかったって」

「21世紀の現世にもどりたいと思わない人や、前世の魂に感情にひっぱられて同化してしまった人は、どうやっても心変わりをさせられなかった」

 かがりはため息まじりに「あ〜ぁ、またあの娘たちがもうちょっと役立ってくれたらなぁ……」と不満を漏らした。


「役立たずですまなかったな」

 ふいにうしろから威圧するような声が聞こえた。ふりむかなくてもわかった。

 マリアだ。

 かがりは、うしろをくるりと振り向いて言った。

「あら、役立たずなんて言ってないわよ。ただ、たいした働きをしてないって……」

「ふん、おなじことだ。それに力及ばずながら、一応は連携している……」


Cooperative協調する・Divers だからな」


 そのネーミングに聖が文句を言った。

「マリア。その名称はどうにかならない?。ぼくはひとりで潜っていた時は勝手に『Soul・Diverソウル・ダイバー』って名乗ってたんだけどね」

「ダメだ。バチカンが決めた正式名称だ。一人で潜っている時はその『厨二病』的な名称を名乗っても構わんが、みんなで潜る時は『サイコ・ダイバーズ』だ」

「弱ったね。エヴァも『コーマ・ディジーズ財団』での名称『Mind・Diverマインド・ダイバー』のほうがいい、って言ってたんだけどなぁ」

「オレが決めたわけじゃねぇ、聖。連携している時は『サイコ・ダイバーズ』と呼ぶ決まりだ。『アヴェンジャーズ』みたいにな」

 聖はそれ以上の議論は不毛とばかりに、肩をすくめてみせた。

 かがりは、聖がマリアに言いくるめられたのが、どうにも納得いかなかった。咽に魚の骨がひっかかったような、些細な不快感だったが、ちょっと意趣返しがしたくなった。

「マリア、そう言えば、このあいだの、ドナルドさんの一件……」

「あぁ、次期アメリカ大統領とかいう、しょっぼい前世のおっさんか」

「あれ、聖ちゃんがいなきゃ救えなかったって、お父さんから聞いたわよ」

「はん、ご心配なく。オレだってやれたよ。たぶん……」

「いいわね。いつも聖ちゃんに助けられてばかりで!」

 すこしくだけた調子で揶揄やゆしてみたが、マリアはすがめた目をかがりに向けると、口元に意地悪そうな笑みを浮かべて言った。

「かがり。おまえ、オレと聖のこと嫉妬してるのか?」

「な、なによ、べ、べ、別に、そ、そんなわけないでしょ」

「マリア、失礼だよ。ぼくとかがりは従姉妹だ。ぼくのことは弟みたいに心配しているだけだよ」

「聖!。オマエ、はあいかわらずの……でくのぼう……、いや……ぼんくら……、あ、いや、朴念仁ぼくねんじんだな」

「どういうことだ?」

「おい、かがり、こんな女心がわからんバカやめとけ!」

「ちょっと、マリア、勝手なこと言わないでよ」

 文句を言うかがりにマリアはにたりと笑ってみせると、すぐうしろを親指で指し示しながら言った。

「そうかな、かがり。では、あいつを見てもそんなに冷静でいられるかな」

 かがりが振り向くと、そこにエヴァがいた。

 インターナショナルスクールのおしゃれな制服。だがそのスカート丈は短く、ひょんな動作で下着がまる見えになりそうだ。いまは首元のネクタイをゆるめて、第二ボタンまではずしているせいで、胸の谷間がこれでもかと女を主張している。さらに歩くたびにゆれるバストが、その谷間の魅力を強力にアシストする。

 マリアがにたりと笑みを浮かべながら皮肉っぽく言った。

「かがり、もし聖のことがすこしでも気になるなら、常にアラートを鳴らしておけ」


「あれは……」

「結構な究極兵器リーサル・ウェポンだ」

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