第6話 絶対に妹を救ってみせるから……

「聖はずっと泣いていたよ」

 聖と冴がいる病室の様子をモニタリングしながら、夢見輝男は誰にむかって言うでもなく呟いた。

「おとうさん……。聖ちゃん、いつか冴ちゃんを助け出せるよね」

 かがりがモニタ画面を見つめたまま、輝男に尋ねた。答えがわかっているので、目をあわせて正面切って訊けない……。そんな問いかけだった。

 だが、それに割って入って、残酷な現実を突きつけたのはマリアだった。

「残念だが、それは望み薄だな。かがり、おまえも知っているはずだ」

「えぇ。あの子はすでに前世に魂を取り込まれてしまってますわ。そうなったらもう……」

「じゃあ、なんで聖ちゃんは人の魂のなかに潜っているの?。あなたたちと違って、任務もお金も関係ない。冴ちゃんを助けるっていう一点だけで、毎日のように命をかけてるわ」

「かがりさん、魂に潜るのは大変ですが、命懸けってほどでは……」

 エヴァが諭すように反論したが、かがりはすこしヒステリックに声を張りあげた。

「エヴァ、嘘はやめて。わたし知ってるの。聖ちゃん、一度死にかけたことがある。もしあなたたちが患者の前世の記憶の『未練』に共鳴したり、入り口が閉じるまでに戻ってこれなかったら、あなたたちは脳死する」

 かがりの剣幕に、マリアもエヴァもうつむいて黙り込んだ。

「大丈夫だよ」

 それまで口を開くことのなかった輝男が、満面の笑みでかがりに答えた。

「聖ならきっとやれる。絶対だ……」



 輝男の脳裏にそのときの聖の様子がよみがえってきた。 

 少年の日の聖は『集中治療室』のランプが赤々と点灯しているドアの前に、立ち尽くして泣いていた。輝男が心配そうにうしろから近づくと、聖はふりむきもせず言った。

「輝雄おじさん……。ボク……、冴を救えなかった……」

「救えなかった?。それはどういう意味だ」

「ぼく、冴と一緒に知らない世界に行ったんだ」

「聖、夢でもみたんじゃ……」

「ちがう!!」

 聖は輝男の顔を睨みつけて、おどろくほどの大声で叫んだ。

「冴は沈みかかった大きな船のうえにいた……、ぼくは助けようと手を伸ばしたんだ……

 だけど不気味な男が現れて……」

「船とか不気味な男とか……、聖、オマエなにを言ってる?」

 聖は輝男の顔をみあげた。その顔はまだ涙で濡れていたが、目の奥には決意のような強い光が感じられた。まなじりをキッと上げて、輝男を睨みつけた。

「ぼくは何回でも潜るよ。もっと長く潜れるようになって、かならずあの時代に戻ってみせる……」


「絶対に冴を救ってみせるから……」

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