《ラクリマの恋人×星空の小夜曲》2 第18話 束の間の交わり

 アルマの放つ闇の魔法が、サークの体に横に降り注ぐ。それをサークは、風の防壁で総て弾いた。


「しぶといねェ! それに本当に犬っコロ共まで逃がしきるとは、さてはお前、話に聞いてた『イレギュラー』だな?」

「イレギュラーね。て事は、俺とアイツはテメェらにとっては招かれざる客って訳だ」

「ったく、こういうのは俺じゃなくてエドナの得意分野なんだが……なっ!」


 アルマが再び、闇の魔法を放つ。それは防壁を生成していた人型を、跡形も無く消し飛ばした。

 それと同時に、サークがアルマに向かって駆け出す。接近戦に持ち込まれると不利な事が解っているアルマは、サークを近付けさせまいと足元に黒蛇を湧き出させる。しかしサークはそれに構わず、速度を落としながらも強引に歩を進め続けた。


「力ずくかよ!」


 そこに続けてアルマが闇の魔法を放つと、やっと防御の為にサークが足を止めた。畳みかけるように、アルマは更に多くの黒蛇をサークの体に纏い付かせる。


「今度こそ終わりだな、色男!」

「……誰が終わりだって?」


 勝ちを確信したアルマに、しかしサークは不敵に嗤う。そして新たな人型を呼び出し、自分を中心に激しい暴風を巻き起こした。


「何!?」


 暴風はサークに纏わり付いた黒蛇を、根こそぎ上空に巻き上げていく。アルマは新たな蛇を呼ぼうとするが、自分自身が暴風に巻き込まれないようにするのがやっとだった。


「クソ、とんでもねえな……人間レベルの威力じゃねえぞ、これは……!」


 やっと暴風が治まった時、そこには黒蛇の姿は影も形もなかった。人型を従え立つサークが、曲刀の先をアルマに向ける。


「大人しくセシリアを返しな。彼女とは縁もゆかりもないが、一度守ると決めたものは見捨てないってのが信条でね」

「お綺麗なこって。反吐が出るね」

「そりゃお互い様だ」


 厳しい目を、お互いに向け合う両者。しかしその緊張は、意外な形で破られた。


「プギー!」


 鳴き声を上げながら二人の間に飛び込んできた、一つの影。それは、ステラを背に乗せたアデルだった。


「お前ら!? 何で戻ってきた!?」

「おいアデル、どこまで……」


 そこにアデルを追うようにして、一人の黒髪の青年が飛び込んでくる。その青年を見たアルマの目が、僅かに見開かれた。


「……トキ……!」

「っ!? アル……マ……?」


 青年――トキもまた、アルマを見て驚愕の表情を浮かべる。ただ一人サークだけが、今起こっている事を理解出来ずに戸惑っていた。


「アンタ……何で……だって、アンタはあの時確かに……!」

「トキもアデルもはえーって! ……って、コイツ、あの時セシリアを攫った……!」


 そこに続々と、トキを追ってきたロビン達が合流する。それを見たアルマは我に返り、小さく舌打ちした。


「流石に多勢に無勢だな。ここは一旦引くか。……おい、トキ」


 気怠げな様子で、アルマがトキに呼びかける。それを聞いて、トキの肩がピクリと震えた。


「お前のオンナは預かってるぜ。返して欲しけりゃ、カルラディア城に来な」

「なっ……待ちやがれ、アル……!」


 トキの手が、アルマに追い縋るより早く。アルマはサークの倒した蛇達の死骸と共に、姿を消していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る