《ラクリマの恋人×星空の小夜曲》2 第19話 何よりも大切なもの

「……ッチ、逃がしたか……」

「サーク!」


 アルマと対峙していた男に、クーナが駆け寄る。そんな二人に、トキは胡乱げな視線を向けた。


「……得体の知れない者同士、知り合いという訳か」

「けどさっきの奴と戦ってたって事は、少なくとも敵じゃない筈だぜ。アイツは確か、魔女の手先だからな」

「魔女の?」

「ああ。俺達は、魔女と戦ったんだ」


 ロビンがマルクに言った言葉は、確かにそうなのだろう。五年前ならば、自分も同意していただろうとトキは思う。

 だがトキは今でも覚えている。死の直前、アルマは確かに「自分の兄貴分」だったという事を。

 だからこそ解らない。アルマがセシリアをさらった意味も。それをわざわざ自分に告げた、その真意も。


(俺は……どうすればいい? 昔みたいにアルマを憎めばいいのか? それとも……)

「なぁ、アンタ」


 トキが行動を決めあぐねていると、ロビンが男に向かって声をかけた。クーナと話をしていた男は振り返り、それに応じる。


「何だ?」

「アンタ、セシリアと一緒にいたのか?」

「セシリア……お前達は彼女の知り合いか? ああ、確かに俺は彼女を保護し、行動を共にしていた」

「ならば……セシリアは本当にさらわれたのか」


 男の返答に、マルクが強く歯噛みする。ならばやはり、アルマがセシリアをさらった事は事実なのだ。


「……どうやらそちらはそちらで、俺の探し人を保護してくれていたようだな。恩に着る。……さぁ帰るぞ、クーナ」

「駄目。私帰れないよ」


 再びクーナと向き合い手を差し伸べた男に、しかしクーナは大きく首を横に振った。その反応に、男の眉間に皺が寄る。


「お前は今の状況が解ってないからそう言えるんだ、クーナ。いいか、ここは夢の世界だ。だがとても危険な夢だ。ここで死んだ人間は、現実でも死んじまう。だから俺はお前を連れ戻しに……」

「なら尚更帰れない。姉様を助けるまでは!」

「姉様? お前何言って……」

「トキさん!」


 クーナが不意に、トキを振り返る。そして真っ直ぐな瞳で、こう訴える。


「急いでカルラ何とかってお城を探して、姉様を助けよう! このままじゃ、姉様が危ないよ!」

「だな。クーナの言う通りだ。アイツがまたセシリアに悪さしようってんなら、俺達で止めないとな!」

「あの男……魔女の手先であろうが何だろうが、セシリアをさらった以上、必ずこの手で殺してやる……!」


 ……そうだ。トキは気付く。

 アルマの真意を考えるのは後でいい。今何よりも優先すべき事は、セシリアを助け出しこの悪夢から目覚める事だ。

 思いがけない事態に、優先順位を見失いかけていた自分をトキは恥じる。アルマの元にセシリアがいると言うのなら、救い出すまでだ!


「行こうよ、トキ! セシリアを助けよう!」

「……ああ」


 自分を見つめるティオの頭を、トキは力強く撫でる。もう二度と手放さない。その強い想いを胸に。


「セシリアは……必ず助け出す!」


 固く拳を握り締め。トキはそう、心に決めた。

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