《ラクリマの恋人×星空の小夜曲》2 第17話 唯一無二の君

「……」


 前を歩き、ティオと談笑するクーナをロビンが真剣な顔で見つめる。それに気付き、トキは怪訝な顔になった。

 もしやロビンは、クーナを内心では警戒しているのだろうか。元々ロビンは賞金稼ぎだ、怪しい人間への嗅覚が優れていても不思議ではない。

 そう、トキがロビンを見直していた時だ。


「……惜しいなぁ……」

「あ?」


 呟きと共に、ロビンが溜息を吐いた。その発言の意図が読めず、トキは思わず聞き返してしまう。


「何がだ、クソゴリラ」

「いやさぁ……あの子可愛いんだけど、色気がないんだよな。健康的すぎるっつーのか」

「……まさか、ずっとそれを考えてたんじゃねえだろうな」

「? そうだけど?」


 ……見直した自分が馬鹿だった。心から、トキはそう思った。

 ロビンが女に目がないのは知っていた。だが、こんな時まで女を品定めするのを止めないとは。

 しかも、あんな怪しい女を。いくらこれがただの夢だと思っているからといって、緊張感がなさすぎるのではないだろうか。


「ま、心配しなくていいと思うぜ?」


 そんな事をトキが思っていると。不意に、ロビンがそう言った。


「何でそう言える」

「あの子、セシリアにちょっと似てるからさ」


 ロビンの言葉に、トキの思考が一瞬止まる。似ている? ……あの女が、セシリアに?


「どこがだよ。目ぇ腐ってんのか」

「見た目の話じゃねえよ。何つーのか……雰囲気? そういうのが似てるなって」


 直後に「まぁ、エロさはセシリアの方が断然上だけどな!」とにやけた顔になったロビンを一発殴ってから、考える。確かに、あの時の本人ならばだが、セシリアとクーナは妙に気が合っていた気がした。

 だがクーナでなくても、誰かの事をセシリアに似ていると思う事にトキは抵抗があった。それほどトキにとって、セシリアは唯一無二の存在だった。

 目の前では、ティオがクーナに嬉しそうな笑みを向けている。それがセシリアに向けるものと似ている気がして、トキは思わずかぶりを振った。

 早くセシリアを見つけよう。そうすれば解る。セシリアとクーナは、まるで似ても似つかないと。


 ――ガサガサッ!


「!!」


 その時前方の茂みが激しく揺れて、先頭に立っていたマルクが身構える。揺れはどんどん大きくなり、やがて勢い良く、大きな何かが飛び出してきた。


「ガウゥッ、ガウッ!」

「プギッ! プギッ!!」

「……アデル!? それにステラ!?」


 その姿を見て、いち早く反応したのはトキだった。二匹は一直線にトキに駆け寄ると、急かすように服の袖を引っ張り始めた。


「トキ、もしかしてこいつら……!」

「お前ら……セシリアのとこに俺を連れてこうって言うのか?」

「プギ!」


 トキの問いを肯定するように、ステラが一声鳴く。それを聞いて、トキの腹は決まった。


「……案内してくれ! お前らも遅れずについてこいよ!」

「おう!」


 トキ達は顔を見合わせ、アデルとステラの導く方へと駆けていった。

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