《ドア×還らずの館》第4話 再会の約束
「はー、ごちそうさまぁ!」
皿に盛られた果物を完食し、くぅは一息吐く。果物は新鮮で、くぅの時代のものより味がサッパリとしている気がした。
「美味しかった?」
「うん! でも、あたしが食べちゃって良かったの?」
「うん、だってお礼だもの」
くぅの疑問に、笑って答えるシャルロット。シャルロットはくぅが果物を食べている間、ずっと楽しそうにくぅを見つめていた。
それが何だか無邪気な子供に見えて、年上の女性であるのに、何だか同年代と接しているような気分にくぅをさせるのだった。
「それで、くぅちゃんは、今までどんな所を旅してきたの?」
「えっ……」
しかし次いで問われた内容に、くぅは返事に窮してしまう。と言うのも、くぅは確かに旅人だが、それは時間も空間も越えた旅だ。
その総てを正直に言う訳には、流石にいかなかった。
黙ってしまったくぅを、シャルロットはジッと見つめる。と、やがてその相貌が、申し訳無さそうに歪んだ。
「……もしかして、あんまり触れられたくない事だったかな」
「あっ、ううんっ、そういう訳じゃっ」
「ごめんね。言いたくないなら、無理して言わなくていいよ。……旅って、楽しいだけじゃないもんね」
その言葉に、くぅはかぶりを振りたい気持ちでいっぱいになる。確かに大変な事もあるが、蘇芳と、夜さまと三人の旅は、くぅにとって確かに楽しいものであったからだ。
「違うよ! 旅はとっても楽しいよ!」
「くぅちゃん?」
結局耐え切れず、くぅは声を上げた。シャルロットはそんなくぅを、驚きの目で見つめる。
「不安な事もあるけど、すぅちゃんも夜さまもいるから凄く心強いし! だから辛くなんかないよ!」
「……」
くぅの視線と、シャルロットの視線が交錯する。束の間の沈黙。やがて表情を和らげたのは、シャルロットの方だった。
「……そっか。いい旅をしてるんだね」
「……うん」
「なら、言えるところだけでいいから聞きたいな。くぅちゃんが何を見てきたのか」
そう微笑み、シャルロットが言う。くぅもまた、シャルロットに、これまでの事を聞かせたいと思い始めていた。
「うん! 勿論!」
「ありがとう! ……そういえばまだ、時間は大丈夫かな?」
「……あっ! 今何時!?」
シャルロットに言われて、くぅは慌てて時計を探す。時計は、もうすぐ十二時を指そうとしていた。
そろそろ蘇芳の元に向かわねばならない。くぅは、慌てて椅子を降りた。
「わわっ、そろそろ戻らなきゃ!」
「そっか……ねぇ、くぅちゃんはまだこの街にいるの?」
「うーん……いつまでいるかはあたしが決めてる事じゃないから……」
「もし明日もまだいるなら、またうちに来ない?」
「えっ、いいのぉ!?」
「うん! 私、くぅちゃんともっと仲良くなりたい!」
二人の顔が、共に笑顔になる。このどこか不思議な魅力のある女性の事が、くぅはすっかり好きになっていた。
「じゃあ、明日もいたら、また来るねぇ!」
「うん! 今度はお菓子を用意して待ってるね!」
シャルロットに見送られながら、くぅは家を出て工場へと駆け出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます