《星空1000PV記念!》異説・白雪姫(後編)

 森を掻き分け、狩人サークは前へ前へと進みます。白雪姫クーナにはああ言ったものの、狩人サーク自身の体力も限界に近付いていました。


「不味いな……早く水だけでも見つけないと……ん?」


 ふと見ると、前方にひらけた空間が見えます。そしてそこには、一件の小屋が立っていたのです。


「こんな森の中に小屋? 少し怪しいが……贅沢は言ってられないな」


 疲れ切った足を動かし、狩人サークは小屋に向かいます。小屋の前では、木こりドリスが薪割りをしていました。


「すまない。あんたはここの住人か?」


 狩人サークが声をかけると、木こりドリスは薪割りを止めて顔を上げました。


「ああ。こんな森の中でどうしたんだい?」

「すまないが、水を貰えないだろうか。出来れば二人分」

「連れがいるのかい?」

「ああ。今は離れたところで休ませてる」

「そりゃ大変だ! すぐに行こう、案内しておくれ!」


 木こりドリスはすぐに井戸から水を汲んでくると狩人サークに与え、狩人サーク白雪姫クーナの元まで案内させました。そして二人は無事、木こりドリスの小屋に保護されたのです。



 二人の事情を聞いた木こりドリスは、快く二人を小屋に置いてくれました。二人は自分に出来る事を手伝いながら、日々を過ごしました。

 狩人サークは狩り、白雪姫クーナは家事手伝い。始めは悪戦苦闘しながら家事に取り組んでいた白雪姫クーナでしたが、『大の男七人分は働く』と自称する木こりドリスの助けもありそのうちに色々な事がこなせるようになってきました。

 ――しかし。運命は決して、二人を放って置いてはくれなかったのです――。



 ある日の事です。その日は小屋にいるのは白雪姫クーナ一人きりで、狩人サーク木こりドリスも外に出ていました。


「あれ?」


 突然ノックの音が聞こえて、白雪姫クーナは掃除を中断して玄関へと向かいました。


「どなたですか?」

「リンゴ売りの行商デェス♪ 開けて下サァイ♪」


 その声に白雪姫クーナがドアを開けると、そこにはフードを目深に被った女の子が立っていました。手に持ったカゴには、美味しそうなリンゴが沢山入っています。


「カワイイお嬢さん♪ おいしーいリンゴはいかが?」

「うーん、食べたいけど私、お金持ってないよ」

「ならお近づきのシルシに一つサービスしてアゲル♪」


 そう言って、女の子がリンゴを一つ取り出して差し出します。しかし白雪姫クーナは、ゆっくりと首を横に振りました。


「ううん、いいよ」

「どうしてぇ? すっごーい美味しいリンゴなんだよぉ?」

「一緒に住んでる人達が頑張ってるのに、私一人だけリンゴを食べるなんてズルいもん。だから貰えない」


 女の子はそれを聞くと、強く歯軋りをします。そしてリンゴの山の下に隠してあったナイフを取り出し、白雪姫クーナに襲い掛かります。


「だったら直接殺してアゲル! 死ね、白雪姫クーナ!」

「あなた……お義母様ビビアン!?」


 そう、女の子の正体は白雪姫クーナを自らの手で殺しにやってきた継母ビビアンだったのです。白雪姫クーナは必死にナイフを避けますが、やがて壁際にまで追い詰められてしまいます。


「止めて! お義母様ビビアン!」

「アンタがいなくなれば……ビビアンが世界で一番カワイくなるんだからあっ!」


 そして逃げ場をなくした白雪姫クーナに今まさにナイフが振り下ろされようとしたその時。


白雪姫クーナ!」


 その声と、何か固い物同士がぶつかる音と共に、継母ビビアンが前のめりに倒れます。白雪姫クーナが顔を上げると、猟銃を逆に持った狩人サークが息を切らせて立っていました。


狩人サーク……どうして」

「急に胸騒ぎがしたから、急いで戻ってきたんだ。まさか継母ビビアンが直接乗り込んでくるなんて……」


 怪我一つない白雪姫クーナの様子に狩人サークは安堵しましたが、白雪姫クーナの表情は暗いままです。やがて白雪姫クーナは、悲しそうに言いました。


「……もういいよ、狩人サーク。私、このまま一人で旅立つ。これ以上狩人サークに迷惑かけられない」

「何を馬鹿な事を……」

お義母様ビビアンの狙いは、私。私が生きているか、私より可愛い子が現れない限り……きっとお義母様ビビアンは私を諦めない。だから……」


 白雪姫クーナが言葉を言い終わる前に、狩人サークは、力任せに白雪姫クーナを抱き締めました。そして、力強い声でこう言いました。


「俺が守る」

狩人サーク……」

「お前の事は一生、俺が守り抜く。絶対に」


 そのまま二人は、静かに見つめ合います。やがて、白雪姫クーナは言いました。


「私にも、身を守る方法を教えて」

「え?」

「守られるだけでいたくないの。堂々と、狩人サークの隣で生きていきたいの。お願い」


 驚いたように、狩人サーク白雪姫クーナを見ます。どのくらいそうしていたのか、不意に狩人サークの表情が和らぎます。


「……そうだな。二人助け合って、生きていこう。ずっと」

「うん!」


 二人は今ここに、確かな誓いを交わしあったのでした。



 ――そして、数年後。


「さあ悪党、大人しく観念しなさい!」


 眼前に突きつけられた銃に、髭面の男は怯えます。男の前に立っているのは、スラリとした肢体と艶やかな黒い髪、そして雪のように白い肌が特徴的な美女。


「あ、あれだけの人数がたった二人に……まさか……まさかお前らが……」


 美女の後ろに立つのは、砂色の髪の青年。そして男は泣きながら、その名前を呼びました。


「お前らが最強と名高い二人組の賞金稼ぎ……『スノーホワイト』!?」

「正解! どうする? 大人しく出頭する?」


 美女、いえ、白雪姫クーナの不敵な微笑みに――悪党の男は何度も頷いたのでした。



 むかしむかしの物語。継母に、命を狙われた白雪姫。

 けれど白雪姫は自らを守る力を身に付け、本当に愛する人といつまでも幸せに暮らしたそうな――。



「……で、この王子ベルファクトの出番は?」


 ない。


「ちょっと待て!?」



 おそまつ。






fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る