《星空1000PV記念!》異説・白雪姫(前編)

 むかしむかし、ある国で一人の女の子が産まれました。女の子はその白い美しい肌から白雪姫クーナと名付けられ、大切に育てられました。

 白雪姫クーナは早くに母親を亡くし、今の母は後から嫁いできた継母です。そしてこの継母ビビアンは、恐ろしい魔女でもあったのでした。


「鏡よ鏡、世界でいっちばーんカワイイのは……ビビアンしかいないよねえ、アハッ♪」


 継母ビビアンは毎日のように、何でも知っている魔法の鏡に問いかけるのでした。



 時が経ち、白雪姫クーナも成長しました。継母ビビアンはいつものように、魔法の鏡に問いかけます。


「鏡よ鏡、解り切ってる事だけど世界でいっちばーんカワイイのはだあれ?」


 しかし、鏡はこう答えました。


『それは白雪姫クーナです』

「ハア!?」


 継母ビビアンはそれを聞いて怒りに震えました。そして部下の狩人サークにこう命じます。


白雪姫クーナを森に連れてって殺してきて。証拠に心臓を取ってくるのも忘れないでよネ!」


 狩人サークは気が進みませんでしたが、仕方無く命令通りに白雪姫クーナを森へと連れて行きました。


「えへへっ、久しぶりだね。狩人サークとこうして外に出るの」


 何も知らない白雪姫クーナは、そう言ってはしゃいだ声を上げます。それを見た狩人サークの胸が、ちくりと痛みました。

 狩人サーク白雪姫クーナの事を小さい頃から知っています。きょうだいのいなかった白雪姫クーナには、狩人サークが兄代わりのようなものでした。

 継母ビビアンの命令に逆らえば、きっと自分の命はない。それでも狩人サークは、白雪姫クーナを殺す事を躊躇ってしまうのでした。


「……いいよ、狩人サーク


 その時白雪姫クーナが、狩人サークの方を振り返って言いました。その顔には、どこか諦めたような笑みが浮かんでいます。


「いいって、何が」

「きっとお義母様ビビアンに、私を殺せって言われたんでしょ? 最近のお義母様ビビアン、私を凄い目で見てくるもの。私、いいよ。狩人サークになら」


 ……白雪姫クーナは、本当は全部解っていたのです。どうして自分が今日、この森に連れ出されたかも。

 そんな白雪姫クーナを見て、狩人サークは決心しました。


「いや……お前は絶対に死なせない。今なら誰も気付いてねえ。急いで城から離れるんだ」

「……狩人サークは?」

「代わりに猪の心臓でも差し出すさ。それで暫くは誤魔化しが効くだろ」

「駄目!」


 そう言った狩人サークに、白雪姫クーナは首を横に振ってしがみつきます。琥珀色の瞳は大きく潤み、今にも泣き出しそうです。


「もし私が生きてる事が解ったら、狩人サークが殺されちゃう! そんなの嫌!」

「だが、他に方法は……」


 困ったように狩人サークが言うと、白雪姫クーナは何かを決意した目で狩人サークの手を取りました。そして、狩人サークにこう告げます。


「一緒に逃げよう、狩人サーク!」

「え?」

「私達二人ともが助かる道があるなら、もうそれしかないと思うの!」


 真剣な瞳で、白雪姫クーナ狩人サークを見つめます。それからどれだけの時が経ったのか、狩人サークもまた覚悟を決めた顔になって言いました。


「……解った。森なら俺も、若干の地の利がある。森に身を隠しながら、出来るだけ遠くへ逃げよう」

「うん!」


 こうして白雪姫クーナ狩人サークの、逃亡劇が幕を開けたのでした。



 二人が逃げ出した事を知った継母ビビアンはカンカン。すぐに城の兵士に、二人を探すよう命じます。


「ビビアンに逆らった奴はどうなるか……思い知らせてアゲル♪」


 そう言って、継母ビビアンは歪んだ笑みを浮かべました。



 夜が来て、新しい朝がやって来ました。夜通し歩き続けた二人の足は、もうすっかりフラフラです。


「大丈夫か、白雪姫クーナ?」

「……うん」


 白雪姫クーナは頷き返したものの、もう限界が近い事は確かなようでした。そこで狩人サークは、足を止め白雪姫クーナに言います。


「お前はここで少し休んでろ。俺は近くに川でもないか探してくる」

「でも……」

「城育ちのお前がここまで飲まず食わず、殆ど休み無しできてるんだ。ここで休まないと本当に倒れちまう。俺なら大丈夫だ、すぐに戻る」

「……本当に?」

「ああ、絶対に」


 狩人サークが頷くと、白雪姫クーナは糸が切れたようにその場に座り込みました。それを確認した狩人サークは一人木々の向こうへと一歩を踏み出します。


「それじゃ、行ってくる」

「うん……絶対に帰ってきてね?」


 白雪姫クーナの声を背に、狩人サークは残された気力を振り絞って歩き出したのでした。

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