《星空500PV記念!》異説・シンデレラ
むかしむかしあるところに、
「今日もいい天気! お洗濯日和だね!」
辛い毎日を……。
「さーて、今日もバリバリ家を綺麗にしちゃうよー!」
辛い……。
「今日の晩ご飯はお義母様達の好きなビーフシチューにしようっと!」
……それなりに充実した毎日を送っておりました。逞しいなこの子。
そんな
「義姉様達がいつもあんなに張り切って行くんだもん、きっと素敵な場所なんだよね」
家事の合間にそんな風に舞踏会への想像を膨らませるのが、
けれど
「あーあ、この生活に不満はないけど、一回ぐらいは舞踏会に行ってみたいなあ……」
今夜もまた、お城で舞踏会が開かれます。義姉達は、舞踏会の支度で大忙しです。
「いい、
「うん、お義母様」
そう言って、継母と義姉達は舞踏会へと行ってしまいました。
「よし! 今日も残りの家事を頑張るよ!」
「――随分と元気だな、
すると背後から突然、人の声がしました。一体誰だろうと、
「よっ。はじめまして、だな」
そこにいたのは、フードを目深に被り黒いローブを着た男の人でした。見慣れない姿に、
「あなた、誰?」
「俺か? 俺は魔法使い。お前の願いを叶えに来てやったのさ」
「私の、願い?」
「お前、舞踏会に行きたいんだろ?」
「えっ!?」
魔法使いの言葉に、
「どうして知ってるの!?」
「魔法使いは何でも知ってるのさ。健気な
「で、でもまだいっぱいやる事が……」
戸惑う
「……」
「ま、ざっとこんなもんさ」
呆然とする
「凄い! 凄い凄い凄い! 私、魔法って初めて見た!」
「喜んで貰えたかい?」
「ねえ、他にはどんな事が出来るの!?」
「他には、そうだな……ほらよ」
再び魔法使いが指を鳴らすと、今度は
「わあ……! 綺麗なドレス……!」
「それで舞踏会に行けるだろ。目一杯楽しんできな」
暫く嬉しそうに自分の姿を眺めていた
「魔法使いさんは一緒に行かないの?」
「え?」
「俺はいいんだよ。気にせず行ってきな」
「やだ! 魔法使いさんも一緒がいい!」
ところが
「……俺達魔法使いは、城の連中からは嫌われてるんだ。俺と一緒になんか行ったら、折角綺麗にしたのに門前払い食っちまうぞ」
「どうして魔法使いは嫌われるの?」
「連中は、魔法使いが怖いのさ。例え何もしなくても、魔法が使える、ただそれだけでな」
「そんな!」
魔法使いの言葉に、
「魔法使いさん、こんなにいい人なのに! ただ魔法が使えるだけで嫌うなんて、そんなの酷すぎるよ!」
「……勘違いしてるようだが、俺はいい人なんかじゃない」
「え?」
しかし魔法使いは、そう言うと自嘲気味に笑いました。
「俺は不死の呪いをかけられていてね。百の願いを叶えるまでは、呪いが解けないんだ。つまり俺は、自分の為にお前を利用してるんだよ」
「……」
「お前は夢を叶える。俺は呪いが解ける日に一歩近付く。それだけの、互いを利用し合う関係さ。だから……俺の事はもう気にするな。早く行け」
「なら魔法使いさん、ここを魔法で舞踏会の会場にして。そして、私と踊って」
「……え?」
「それなら私の舞踏会に行きたいって夢、叶えた事になるでしょ? 私は……魔法使いさんと踊りたいの。嫌?」
そう言って微笑んだ
「……負けたよ、
魔法使いが指を鳴らすと、辺りの家具が一斉に音楽を奏で始めます。それから魔法使いは
「一曲踊って頂けますか? レディ」
「はい。素敵な魔法使いさん」
そうして二人は、音楽に乗せて踊り始めました。踊るのは初めてな
ふと
いつまでも続くと思えるような楽しい時間。それを終わらせたのは、遠いお城から聞こえた鐘の音でした。
「あっ……」
鐘の音が響くと同時に家具は歌うのを止め、カボチャとネズミも元通り。
「時間切れ、か。俺の魔法は、一部を除いて十二時になると解けちまうんだ」
名残惜しそうに
「もう会えないの?」
「ああ。一人の願いを叶えられるのは、一回までと決まってる」
「なら、私も連れていって!」
「馬鹿野郎、簡単に言うんじゃねえ! お前、俺についてくるってのがどんな意味か解ってんのか!? マトモな生活なんて送れる筈もない、今以上に辛い暮らしをする事になるんだぞ!」
「それでもいい! 私は魔法使いさんの側にいたいの!」
「このままここで暮らしてれば、いつかいい男がお前を見初めるかもしれない。自分の幸せを棒に振る気か!?」
そんな魔法使いに、
「いつか現れるかもしれない王子様よりも、私は私を最初に見つけてくれた魔法使いさんの方が好き」
「……!」
「どうしても連れていってくれないなら、勝手に魔法使いさんを追いかける。そして絶対に、探し出してみせるんだから」
「……やれやれ。とんでもない娘に、俺は捕まっちまったらしい」
「そうだよ。私、根気強さには自信があるんだから」
「総てを捨てる覚悟は出来てるんだな?」
「全部捨てる訳じゃないよ。だって魔法使いさんがいるもの」
「それじゃあ行こうか、
「ねえ、その前に……魔法使いさんの名前を教えて」
「……サークだ」
「サークね。私、サークから一生離れないから!」
「光栄だ、
そうして二人は、夜の闇へと溶けていったのでした。
その行方は、ただ風のみが知る――。
fin
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