剣の稽古

どうしてこうなった。

そうつぶやくことしか出来ないまま、

片手に木剣を握りしめ、ユリーナ姉さんと対峙している。


遡る事 1時間半前……


「ねぇ、アブ!稽古しようよ!」


「は?稽古って剣のだよね?あれはたしか6歳からだった気がするんだけど?」


「何よ……したくないの?するわよね?」


「うっ……」


なんだろう。この押しの強さは。

人に物言わさぬ。そんな口調で追い詰めていく姉さんに私は勝てないままでいる。


でも、だからって3歳相手に何がしたいんだこの脳筋アホは。

でもさ、相手が年上なら、手加減なんていらないのでは?

これは、積年の恨みを晴らす時?


―――全力で潰してやる。


審判はエリック兄さんだ。

審判と言うよりかは試合が終わるまで眺めているだけだが。


「では――初め!」


その一言で試合が始まる。


「てやあああああっ!」


試合が始まった途端にユリーナ姉さんは勢いよく突っ込んでくる。

それを紙一重で交わすと、ユリーナ姉さんは呆気にとられていた。


「んなっ、馬鹿な…」


まさか避けられるとは思っていなかったのか。思わずそんなことを口にしているが、

それはあまりにも相手を侮りすぎでは無いだろうか。

そういう点でいえば馬鹿はそっちだ。


「今度はこっちからかな?」


「へ?」


その瞬間アブの姿がフッと消え、次に見えたのはユリーナの背後で黒い笑顔を浮かべ、剣を構えるアブだった。


「剣技・朧月ヘルムーン


アヴィの木剣から放たれるその目にも止まらぬ剣の動きに圧倒され、一瞬にして勝負が決まった。


「う、嘘、そんな、なんで……」


「木剣だしそれなりに手加減したはずだから。痛みはそこまでないでしょう?」


「うっ…うう……ひぐっ……」


「ご、ごめん!痛かったの?」


「ちがっ…アブにぃ、負けたからぁ」


そんなに舐められていたのか。

確かにこれは我ながら少し狡いものを使ったが、仕方ないだろう。

かかってきたのはそちらなのだから。


「次は絶対に、負けないから!」


そう決意するユリーナを微笑みながら見ていたアブと、それをぽかんと口を開けたまま真ん丸な瞳で見つめていたエリックであった。


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