山で出会う恐怖

その人は休日を利用してハイキングをしようと計画した。

仕事として人間関係や人ごみの多さから距離を取ろうと考えたのだ。

ネットで調べてみると目標の山は標高もそれほど高くなく、登山客も多いとのこと。

これなら、初心者でも簡単な準備で行けそうである。

そう判断して週末の予定を簡単に決めてしまった。


景色を眺めたり、すれ違う人とあいさつを交わしたりして登山道を進む。

これなら昼には頂上についてしまうだろうと考えながら、初めての登山を楽しんでいた。

一人ならばいくらでも休憩ができるし、よけいな会話をせずに済む。

黙々と歩き続け、ときに周りを見渡してビルやアスファルトの無い世界に全身でつかっていた。


人とすれ違わなくなって数十分。

道も細くなり足元を見ながら歩くのでもゆっくりとなっていく。

すると、突然に道が分かれているところに出た。

ひとつは緩やかな登りへ続く道。

もう一つは緩やかに下る道。

自分は頂上を目指すのだから登りだろうと、確認もせずに道を選ぶ。

その道が、どこに続いているのかも知らずに。


道はその後はさらに細くなり、険しくなる。

しかし、登りがが続いているのでいつかは頂上に着くだろうと歩き続ける。

木々の間から聞こえる鳥の鳴き声。時折聞こえる風の音。

足の痛みと疲れから、聞こえてくるものが煩わしく感じる。

まだなのか、と時計を見ればとうに昼は過ぎていた。

それに気づくと同時に自分が休憩も取らずに結構な時間を歩いていたことを知る。

その場に腰を下ろし、息を整える。

山の中に自分ひとりだけ。

普段人に囲まれていただけに、心細さに拍車がかかる。

さらに鳥の声とも、風の音とも違う、獣の声が聞こえた。

ここにいてはいけない。

そう強く感じて、地図を取り出す。

そして気づいた。

自分が今、どこにいるのかすら分からないことに。



平成29年の遭難者は3111人。うち死者・行方不明者は354人(平成30年警察庁生活安全局)。それだけでなく、捜索には多額の費用が掛かるそうです。

恐ろしい話です。皆様もお気を付けください。

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