台所で出会う恐怖

夏休みのある日、遅くから起きてきた少年は家に誰もいないことを知る。

台所には書置きがあり、母は昼過ぎに帰ることが分かった。

それまでに宿題を進めておこう。

前日の夜に動画を見ていたことがばれてしまうかもしれない。

そんなことを考えながら、冷蔵庫から麦茶を取り出そうとする。


母が家にいないとき、お茶を作るのは少年の仕事だ。

電気ポットと麦茶パックで火を使わなくても簡単にできる。

なにより、この家で一番麦茶を飲むのはほかならぬ少年だった。

少年は家族の中での自分の役割に責任感とやりがいを感じていた。


冷蔵庫を開けて、少年は違和感を覚える。

いつもなら麦茶の入った入れ物が1本、もしくは半分ほど入った物とたくさん入った物が一本ずつ。

これがいつもの冷蔵庫のはず。

それが今は十分に入った物が2本ある。

今から思えば、台所に入ったとき奇妙に蒸し暑いように思えた。

なにか、いつものと違う。

日常の違和感が疑念となり、不気味さを生み出す。

冷蔵庫から流れる冷気が顔に触れる。

背中をじんわりとした汗が伝う。

蝉の声がわざとらしいくらいに聞こえてくる。

少年は冷蔵庫の前で固まっていたが、十秒ほどで我に返った。

なんてことはない、母が作ったのだろう。

手前にあった入れ物を取り出し、勢いよく冷蔵庫を閉める。


まだほのかに温かさを残す入れ物から、コップに注ぐ。

のどはそれほど乾いてはいなかったが、台所の熱さを振り切るように一気にあおる。

その瞬間、麦茶にはありえない甘みと酸味を感じてむせかえる。

少年は理解する。

自分が飲んだのは麦茶ではないということを。



麦茶とめんつゆの色は本当に似ています。口に入れるまで気付かないほどです。(過去に2度ほどやられました)めんつゆを麦茶だと思って飲んだときの体の拒否反応は自分でも驚きました。

恐ろしい話です。皆様もお気を付けください。

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