4 非難
レオザルトは部屋に入るなり、きつい口調でルルリアナを問いただす。
「どうして昼食会に来なかった?」
「ご機嫌麗しく皇太子殿下」
ルルリアナは慌てて窓から立ち上がり、レオザルトに向かって礼儀作法にのっとり頭を下げる。
こんな時でも礼儀を忘れないルルリアナに、レオザルトにしては珍しくイライラした様子でルルリアナに頭をあげるよう声を掛けた。
「頭をあげろ」
素っ気ない声に、先ほど温まったルルリアナの体の熱が徐々に奪われていく。
ルルリアナは理不尽に叱られ落ち込む子供のように俯き、レオザルトと視線を合わせない。
レオザルトはルルリアナが顔をあげるまで待っていたが、いつまでもルルリアナはレオザルトの方を見ようとしなかった。
震えるルルリアナは蹴られた子犬のようで、レオザルトは自分がとても悪い奴になったように感じた。
現に悪い奴なのかもしれないと、レオザルトは思う。
1か月もルルリアナとの昼食会に顔を出さなかったのだから。
それなのに今日の昼食会に来なかったルルリアナのことを、自分を棚に上げ責めている。
本当にお前は立派な婚約者だな、レオザルト。そう自分に毒づく。
昼食会に参加しなかったのは様々な理由があった。今日、そのことを説明し誠意に謝るつもりもあった。しかし、怯えてるルルリアナにレオザルトはイライラを抑えることができなかった。しっかり説明し謝罪しようと思っていたことなど頭からすっかり忘れてしまったのだ。
いつもそうだ、ルルリアナを目の前にするといつもの冷静沈着な完璧な皇太子殿下はどこかにいなくなってしまう。
完璧な雪の華であるルルリアナの前では、欠陥だらけの自分を完璧にみせたかった。
それなのに、自分の口から出た言葉は自分で聞いていても冷たく、ルルリアナを問い詰め突き放すような言葉だった。
「それで、どうして昼食会に来なかった?」
「職務が忙しく失念しておりました」
ルルリアナは再び頭を下げる。
「頭を下げてほしいわけではない。それに侍女が声を掛けたと言っていたが?」
その言葉にカロルは満足げにルルリアナを嘲る。
ルルリアナは中庭でみた少女と今日もお昼を食べると思っていたと言えず、ただ頭を下げ続けるしかなかった。
いつまでも顔をあげないルルリアナにレオザルトは冷たく問いかける。
「どうせ、今日も来ないと思っていたのだろう?」
ルルリアナはどう答えて良いかわからず、よりによってどうして今日に限ってレオザルトが昼食会に参加したのかと、なぜ自分は行かなかったのかと、答えのでない疑問に頭がぐるぐると回る。
「頭をあげろ、ルルリアナ」
言われたとおりに頭をあげたルルリアナはレオザルトの視線を避けるように、レオザルトの唇を見つめる。
ルルリアナはレオザルトの目に浮かぶ侮蔑を直視したくなかった。
レオザルトの唇は不機嫌に曲がっており、中庭で少女に見せた微笑みとはかけ離れている。
「どうして何も言わない?私が昼食会にずっと参加しなかったから、怒っているのか?それとも怒るほどの興味は私にはないというのか?」
ルルリアナは黙ったままレオザルトと視線を合わせない。
予鈴のチャイムが鳴り、レオザルトは不満げに大きく息を吐く。
レオザルトの次の授業はグループ発表をする予定になっており、授業に参加しなかったらグループのメンバーに迷惑が掛かってしまう。
個人よりも全体を重視するように教育されてきたレオザルトにとって、今回の授業はさぼるわけにはいかなかった。
将来の妻であるルルリアナを優先することができない自分の境遇にイライラが募り、最後にルルリアナに声を掛けたいがなんと声を掛けてよいのかわからない。
時計を確認したレオザルトはルルリアナに一瞬だけ詫びるように視線を向けたが、俯いたルルリアナはその視線に気が付かない。
結局、レオザルトはルルリアナに声を掛けることなく、大股で部屋を後にしたのだった。
どうして私はいつもこうなのだろうか…。
どうして、自分の考えを、思いを口にすることができないのだろうか?
足の感覚が無くなるほど、ルルリアナの足は冷え切っていた。
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