幕間① 美雪の想い
―――私が暮人と出会ったのは幼稚園の頃。お母さんの仕事の都合で地方に移り住むことになったのだけど、もともと引っ込み思案な私の性格が祟って一緒に遊ぶ子なんていなかった。
幼稚園でぽつんと一人になって辺りを見渡すと、ぽっかりと心の中に大きな穴が開いたように思えたんだよね。他の子たちは集まってお人形遊びをしたり、おままごとをしたり、クレヨンで絵を描いていたのに、何故だか周りが全部怖いものに見えて………いっつも部屋の端っこで泣いていた。
『おうちに帰りたいよ』『お母さんに会いたいよ』って言って、いつも先生を困らせてたっけ。
『ねぇ、なに泣いてんの? あそぼ?』
『………え?』
『名前はなんていうの?』
『み、みゆき………』
『ぼくはくれとって言うんだ。いこっ!』
『ち、ちょ………っ!』
ある日、一人の男の子が話しかけてきてくれた。びっくりしたけど、隅っこで泣いていた私を連れだしてくれた私を見てニコニコしている優し気な男の子。互いに小さな手を繋いで、後ろから見た彼の姿は小さいながら輝いて見えた。
そう、この男の子こそが今の私の大切な幼馴染であり―――信頼と好意を抱く………ううん、ハッキリ言った方が良いね。
異性としてとても大好きで、心の底から愛している如月暮人との出会いだった。
引っ越した先が偶然にも暮人の近所だったことを知ったのはそれから間もなくのこと。それから時が経ち、彼と同じ小学校に入学した。
自分で言うのもなんだけど、高校生である今では前向きな性格になってよく笑うようになった………でも、昔は元の消極的な性格もあってあまり親しくない人達とは距離を取っていた。例えクラスメイトの女の子が話しかけてきたとしても、表面だけ取り繕って教室では物静かに本を読んでいるようなタイプだったんだ。純粋に心を開けたのは、暮人だけ。
―――だからかな。小学校四年生の頃、複数の女の子からイジメられた。
詳しい理由は忘れたけど、大まかな理由としては二つ。『ウザい』と『獣臭い』だ。
まずウザいというのは、テレビで紹介されるほどの有名な『美人料理研究家』という肩書を持つお母さんがいるからお高くとまっていると思われたらしい。性格故、静かに本を読んでいただけだったのだけれどそれが彼女たちから見ると見下されているように感じてたみたい。
そして獣臭いというのは『どうぶつがかり』だったから。暮人と同じ係になったからこのことに関しては全く気にしていないし寧ろ嬉しかったんだけど、流石にそう何度も言われたときは傷ついたなぁ。だって一応女の子だし。
でもある日、暮人が学校で世話していた猫に餌をやっていた次の瞬間には倒れたからびっくりしちゃった。本当に苦しそうに呼吸してて腕中に斑点が出来てたし、震えていたのは実は痙攣で、暮人が死んじゃうんじゃないかって私も震えた。
急いで先生に伝えて彼が救急車で運ばれていく光景が、今でもずっと頭に残ってる………暮人は知らないだろうけど、私泣き散らしながら半狂乱になったんだよ?
そのあと教室に戻ったけど正直何も覚えていないんだよね。いつも通り筆入れとか置き傘が無くなっていたりして、イジメている子が私の泣き腫らした眼を見てニヤニヤしてた。
けど、次の日にはぱったりイジメが無くなっていたんだ。
後から友達になった子から聞いた話(『あの時は何も出来なくてごめん』って謝られた)だけど、なんか私、そのイジメっ子に対して結構暴れたらしい。
さすがに自分の持ち物を失くされたりしたからって、相手を押し倒してその子の髪の毛をハサミでバッサリ切っちゃうのはやり過ぎだよね………。
でも、絶対に私が今の性格になったのはそれがきっかけだったんだと思う。
これからも暮人の隣で並び続けるにはこのままじゃダメだと思った私は、まず積極性を身に付ける必要があった。物静かにしているだけじゃ、相手に舐められるからね。笑顔の練習をしたり自信を持つ為に様々なことにチャレンジした。
………両親を亡くした暮人は無理してる感じがあったから、私にしてくれたように今度は私が支えたいっていう一心でね。
暮人はその変化に驚いていたけど、中学生になった頃にはよく先生の頼みを引き受けたり生徒会の書記になってみたりしてみた。色々頑張った結果が、今の性格を形成したんだ。
すべては、大好きな彼といつまでも一緒にいたいから………って、あはは、これは重いかな。小梅ちゃんに恨まれる。
そしてこれまでと同様、暮人と一緒に生活したいから同じ高校に入学した。
これまでの経験から自信が付いたということもあって、華の高校生活で少しは彼との関係も進展するかな、って密かに期待してたけど、予想外の事が起こった。
それは女神と名乗る、氷石聖梨華さんとの出会い。
暮人が『回避の勇者』って事も驚いたけど、同時に納得したよ。勘? とか第六感? が凄く優れてるって思ったけど、実はそうだったんだーって。
そんな暮人を狙う氷石さん、今ではあんなだけど出会った最初は殺意増し増しで凄かったなぁ………。周りに向ける表情と暮人に向ける表情の温度差がまるっきり違うんだもの。
そんな彼女もだいぶ軟化して今みたいな感じになったけど、正直内心ハラハラしてたんだよ。だって氷石さん、だんだん暮人に向ける表情が恋する乙女みたいになってるんだもの。
………暮人は知らないだろうね。
あのとき氷石さんに見せつけながら教室であーんした弁当のおかずは私が作ったっていうこと。
有名カフェの話をしたのは一緒に行きたいっていう意思表示だったこと。
拳銃で氷石さんに人質にされたとき、彼女の気持ちを暮人にばらさない代わりに彼に負担がかかるようなことはしないでって
用具室の中は凄く暑かったけど、それと同時にドキドキしちゃった。あんなシチュエーションは中々ないし、暮人の嗅ぎ慣れた男らしい匂いが汗に混じって恥ずかしながら興奮した。
………勇気も、だしたよ。
まぁ、氷石さんの声が聞こえて気が緩んだ瞬間、残念と思うと同時にこれまでと同じじゃダメだなってぼんやりとした頭で考えたしね。
そっから先は記憶にないや。
………なんか、安心する匂いで包まれているような気がする。あと心なしか暖かいな。
ふんわりと、身体が軽く感じて―――。
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