第6話
レイプしてきたのは、見ず知らずの赤の他人。場所は、駅と自宅の間にある広い公園。夜でも街灯は点いているし、抜け道としての距離が長いわけでもない。1分もあれば通り抜けられる、そんな公園の夜道で。
男二人が口を押さえ、体を押さえ、茂みに引きずり込んだ。叫ぼうとすると顔を思い切り、何度も殴られた。凪は叫ぶ事が死に直結すると体で教え込まれ、泣き啜る声を上げるしか出来なくなって。
着る手間を省きたいからと、夏場はワンピースしか着なかった。男二人はワンピースの裾を掴んで捲り上げ、パンツを剥ぎ取る。
「押さえるの楽だな」
「暴れられねえからな」
凪のブラも剥いで乳房を揉み、気色悪く舐め回し、避妊具も着けずにペニスを出し入れする男達の短い会話が、恐怖と絶望と怒りで暴風雨の様に吹き荒れている凪の頭の中で、しかしはっきりと聞こえた。
こいつらが自分を狙ったのは、私の体を見たからだ。抵抗出来ないと知ったからだ。簡単に組み伏せられる弱い存在だと認識されたからだ。
その事実が実感として頭の中で理解された時、秘部から血を流す私の痛みは徐々に搔き消え、代わりに、頭の中を怒りが支配し始めた。
私は、人形じゃない。怒りを吐き出す手段を持つ、一人の人間であり、女だ。屑の様なこんな男に、何故!
瞬時に怒りは沸点に達し、泣き声を上げながら無抵抗だった凪は、次の瞬間に絶叫した。獣の様な咆哮。男達がギクリとして動きを止めるが、すぐに一人が慌てて殴り掛かる。だが、横顔を強打され口の中が切れても凪は叫び声を止めない。それどころか体を起こし、汗臭く汚れた男の一人の毛深い腕に、肉を引き千切らんばかりに噛み付く。今度は男が悲鳴を上げた。
もう一人の男が咄嗟に、近くの石を掴んで凪の頭を殴打する。それまでと明らかに違う激烈な衝撃が凪を襲い、彼女はその場に倒れた。
意識のある彼女が覚えている当夜の出来事は、これまでである。
一週間と経たず、犯人は逮捕された。近所の大学生だった。
裁判の証言台には何度か立ったが、何を答えたかはよく覚えていない。ただ、執行猶予無しの懲役が課せられた事だけは伝えられた。法廷を去り際の男の捨て台詞も、しつこく、いまだに凪の耳に残って離れない。
「金が欲しいか、貧乏人の障害者!」
私は不幸ではない。凪は何度も何度も自分にそう言い聞かせ、怒り、しかし家から出る事は出来ないままだった。平気だよ、と親に言って玄関のドアを押そうとした瞬間、ガクガクと膝が笑い始めたのだ。全く、彼女の無意識に。
そのままその場に崩れ落ちて、学校に出る事は出来なくなった。
もう、自分の噂は学校中に広まっている事だろう。自分を馬鹿にしたクラスメイト達は、そんな私の登校した姿を見てどう思うだろう。
あいつ、レイプされたんだって。
男からも、女からも、生徒からも、教師からも。
そうして必ず、彼らは考えるのだ。
あの体じゃ、狙われても無理ないよな。
視界に入る誰もを皆殺しにしてやりたい、強い暗い衝動が、何度も襲った。その度に凪は、家の電子オルガンを床に置いて曲を弾く。何もかもを叩きつけ、叫び出さんばかりに。
そんな凪を、両親は不憫そうに、どんな声を掛けてやれるでもなく、ただ見守っているだけで。誰も、自分を救ってはくれないのだと絶望しかけた時。
井森が、凪に会いたいと連絡を取ってきた。
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