第2話

 凪は小さい頃から、努力をした。

 自分が出来ない事は、人並みに出来る様に何時間も何日も練習を繰り返したし、覚えられない事は何度でも覚えるまで同じ作業をした。

 家族と、小学生の教師の支えだけが頼りだった。皆、中々前進出来ない凪を見捨てる事はしなかったし、目を掛けてくれたと思う。

 だが、同級生達はどう思うか。

 教師が幾ら協力や理解を呼び掛けても、贔屓だ、甘えだと陰口を言い、表面上は理解を示そうとするが、誰もが自分を避けている事は敏感に感じ取れてしまう。それこそ、努力すればする程に。

 中学に入って、それは顕著になった。教師は生徒を、個人ではなく全体で見る。他と違う子供に対してその子に合った道を示す事は無く、他の皆と同じ道を進ませて、どうにか目立たない平均化された子供にしようという『努力』を始めるのだ。

 生徒に至っては、言うまでも無い。面白がり、不気味がり、ただからかう対象にするばかりだ。

 声を上げて叫ぶ事は、しなかった。しても無駄だった。それで返ってくる言葉も報復も、分かり切っていたからだ。

 自分が今まで努力して勝ち得たものを、そして小学校の教師や両親が今まで自分にしてくれた沢山の事が無駄になってしまう気がして、凪は自分が学校でされている事を、両親に話す事が出来なかった。

 ……しかしそれは、不満と恐怖、そして怒りが無かった、という事にはならない。

 何故私が。何故こんな思いを。私が何をした。

 慟哭ではなく、ただただ絶叫したくなる様な、そんな怒りが凪の腹の内から、爆発しそうな勢いで飛び出そうとしていた。

 怒り。怒り。

 しかし、凪には。

 哀れにも彼女は、その怒りを形にして吐き出す手段を持たなかった。


 音楽に出会ったのは、高校に入ってからだった。

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