間幕 懐かしくも哀しい夢の彼方

 南條優奈は夢を見ていた。


 目の前には、昔の風景が広がっている。

 緑広がる景色の中、視界の先の、遠くに見える人々は、現代人とは違う服装で農作業を行なっている。


 穏やかな気持ちでそれを眺める南條優奈。


 しかし、何故、それが『昔の風景』であると判ったのか――。

 そもそも、この穏やかな気持ちでさえ、南條優奈自身の感情とは思えなかった。


 そう――遠い昔の、何者かの記憶。


 だか、何故、それが南條優奈自身に判るかは理解出来ないが――そうだと思った。


 それは短くも長い時間の様に感じた。


 不意に、視線が下に動く。

 視線の先には、子供達が居た。皆、ニコニコと楽しそうに取り囲んで居る。

 粗末で、見た事がない様な服装。

 髪型はボサボサで、お誠司にも綺麗とは言えない容姿。

 しかし、その瞳には汚れ等無く、輝いている。


 先程から、違和感を拭えずにいた南條優奈であったが、或る事に気が付いた。

 視線元が、普段より高い位置にあるのだ。

 どうやら、この何者かは、長身であるらしい。


 不意に、声を掛けられた。

 その声の主は、美しい和装の着物を身にまとった女の子であった。

 周囲の子供達とは違い、裕福で、位が高い身分なのが、伺える。

「――。おい、ハチ!ハッちゃんよ!どうかしたのかぇ?」


 その声が懐かしく、つい、南條優奈は涙を流してしまう。

 何故、知らない幼女に懐かしさを感じたかは判らなかったが、心の奥が熱くなって、涙を流してしまったのだ。

 といっても、視線の主は涙を流してはいない。ただ、その幼女を眺めるだけだ。


 南條優奈は、“こんな時間が永遠に続けば良いのに”と思った。


 しかし、そうはならないのだ。

 それを知っている。

 判る筈も無いのに、知っているのだ。

 それが、如何してかは判らないが、判っていた。


 それを追求する前に夢は終わっていくのであった。

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