第7幕 辿り着いたのは『きさらぎ』という異世界でした

『怪物』とは『得体の知れない、不気味な生き物』の事である。


 南條優奈だった『何か』は、一見すると、白いワンピースを着て、白い大きな帽子を被った、黒髪ロングヘアの女性のように見える。

 しかし、その『何か』は、まさに『怪物』そのものであった。何故ならば、その容姿に異常性が見て取れるからだ。

 南條優奈とは似ても似つかない程の、2メートルを優に超える身長。その体に白いワンピースを纏い、それから生えている様に垂れ下がった、長い四肢。その白い肌には、赤黒い痣のようなものが広がって、不気味さを漂わせている。そして、不気味と言えば、何よりもその顔だ。手入れのされていない黒髪も、垂れ下がり、それから覗き見える顔も、色白く、赤黒い痣が広がっているのだが、目と口の部分には、丸い穴がポッカリと開いているだけで、暗闇が覗いている。何を見ているか、見えているのかさえ、分からない。

 害悪の無い存在とは到底思えない『何か』は、ただ、その表情の無い不気味な顔を、横に傾げ、星海燕を見下ろしている。


 それにもかかわらず、星海燕は反応を示さない。

 どうやら、気が付いていない様子である。何故なら、星海燕には何も見えていなかったのだ。視界を覆った閃光の所為で、視力を一時的に失っていたのである。


 そんな星海燕の耳に、次第に聞き慣れた声が聞こえ始める。

“「……み……さん、大丈夫ですかっ?!」”

 あの耳鳴りの所為で、今の今迄、聞こえていなかったのだ。


「……大丈夫だから」

 呼吸を整えながら、星海燕は返事をした。


 しかし、“「『大丈夫』じゃあないですよ!今、直ぐに――」”と織乃宮紫慧は近づく。


「――お願いだから、紫慧さんは下がっていて」

 そう言って、織乃宮紫慧を制する。


 目が見えない時点で、大きなリスクを背負っているのに、ダメージを負って、それでもなお、織乃宮紫慧に助けを求めない。

 大人としての見栄か、エージェントとしてのプライドか、はたまた、織乃宮紫慧を守りたいという心情故か、それとも、この状態でも問題が無いということか。

 だとしても、この状態では、助けが必要なようにも見える。

 もしかしたら、現状を把握し切れていないが、正しいかもしれない。


 そんな中、『何か』である『怪物』は、その長い腕を、ゆっくりと振り上げる。

 ただでさえ、頭を横に傾けても、電車内の天井に付きそうなのに、無理に振り上げた為、天井にぶつかり、変な音を立てながら、腕は有り得ない箇所で折れ曲がっている。

 そして、その腕は、星海燕に目掛けて、振り下ろされた。

 その鞭のようにしなった腕は――振り上げた時とは違い、途轍も無い速さで――星海燕を捉えていた。それは、少なく見積もっても、人間を潰してしまう程の勢いがある事は、容易に想像出来る。


――電車内に、物凄い音が響いた。


 視力を失っている星海燕は、その『怪物』の(文字通り)手によって、赤いシミを散らし、圧死をしていた――筈であった。


 しかし、そうはならなかった。


 確かに『怪物』の手は、星海燕が居た――電車内の床に、振り下ろされていた。


 しかし、星海燕は、何事も無かったかの様に、素早く躱してしまったのだ。それは、まるで、理の如く――そう動く事が当たり前の様に――スッと横にずれただけであった。

 それは、武術における歩法にブレイクダンスを応用した回避法の一つで、一見すると、まるでイリュージョンの様にも見える。

 そんな訳で、片膝を突いた状態で、違和感なく躱した事が、却って、違和感を醸し出していた。


 何故、こんな事が出来るのか?

 それは星海燕が、異常とも言える程、様々な武術・武道や格闘技に精通している事と、それらだけに囚われない身体稼働能力を活かした戦闘スタイルと、それらを併用して使えてしまう異常な身体能力に起因する。

 まず、星海燕の身体能力は、別格である。

そして、白兵戦における戦闘センスも別格である。

 その上で生み出された、全く比なる――彼の戦闘スタイルは、相手を傷付けず、全ての攻撃を躱しきるというものであり、『絶対回避』と呼ばれている。

 それは無意識下で、勝手に回避してしまうので、星海燕に攻撃をしてのダメージは、絶無となる。星海燕自身、何者であっても、相手を傷付ける事を良しとしない性格である為、生まれた戦闘スタイルである。

 但し、先の例でも分かる様に、あくまで、物理的に攻撃された場合による。

 よって、先程の、いきなり全身が動けなくなる様な攻撃――この『怪物』が出現した事による、危険性を全身で察知した故の、人間の防衛本能に起因したものと、悪しき者特有の、殺気のようなものが、合わさってしまった様な事象に対しては、能力を発揮出来ない事がある。

 とは言え、これも、認識さえ遅れなければ、対応出来るのだ。

 そういう対処法も熟知している。

 だからこそ、星海燕は『守護者の見えざる手』という、異常現象や人外の者による事件を解決する組織で、エージェントが勤まるのである。


 星海燕は、ふらつきながら、立ち上がった。


『怪物』は、そんな星海燕を一瞥すると、今度は、横薙ぎに腕をしならせる。


 そうして放たれた長い腕を、星海燕は難無く避け、見えない相手に身構える。

 気配で、相手の位置を把握したようである。


 すぐさま、『怪物』は、もう片方の手で、星海燕を捕まえようとする。


 その手をサラリと躱す星海燕。


『怪物』は両手を使い、次々と攻撃を繰り出すも、狭い上に、見えている訳でも無いのに、星海燕は全てを躱しきっている。


 そんな最中、電車はスピードを落としていく。


 そして、その頃には、ぼやけながらも見える程度には回復していた星海燕は、“随分、背の高い人だなぁ”等と、『怪物』に対して、悠長に感心をしていた。


 電車が止まると共に、星海燕は、『怪物』の攻撃を躱しつつ、電車の乗降口から、外に出た。


 そこは駅のプラットホームであった。


 星海燕は駅名の書かれた看板を探したが、弱い灯火しか持たない駅内の所為と、視界がぼやけている為に見つける事が出来なかった。

 薄暗い周囲の風景と、古ぼけた僅かな光を灯したプラットホーム内は、静かで、星海燕の他には誰も居ない様に見えた。

 静かに、プラットホーム内を照らす灯が、点滅を繰り返す。

 星海燕は、周囲を見渡しながら、それを確認し、安堵する。

 他の人を、この異常現象に巻き込む訳にはいかない。パッと見た感じ、無人駅の様でもあるので、一先ず、心配は要らない様だ。


 そうしていると、電車の乗降口の縁を掴む、大きな手が見え、その大きな体を覗かせ、ゆっくりと、『怪物』もプラットホームへと降り立った。

 電車内と違って、天井に頭が付く様な事もない筈なのに、頭を傾げている姿は、より一層の不気味さを醸し出していた。


 一方、星海燕は、楽しそうな顔をして、構えをとる。


 それを合図にするが如く、『怪物』の攻撃が、再び、始まった。

 電車内とは違い、『怪物』の腕は伸縮して攻撃してくる。まるで伸縮する触手の様であり、それが、縦横無尽に様々な攻撃を仕掛けてくる。


 しかし、それを難なく避ける星海燕。


 それは、あまりにも、不毛な闘いの様に思える。

 星海燕には絶対に当たらない。それでも攻撃を仕掛ける『怪物』のスタミナ切れは、想像も付かない。となれば、決着が付く筈等無いのだ。


 暫く、その不毛な闘いは続いていた。

 しかし、或る事が、それを終焉に導く事となる。


“「触りますからね」”

 その声は織乃宮紫慧の声であった。


 星海燕は慌てる。

 何しろ、『怪物』の攻撃が当たらないとはいえ、織乃宮紫慧を庇いながらは、その自信が無かったからだ。

「っ⁈――待って!」

 そう言って、織乃宮紫慧を制した為、僅かに隙が出来てしまう。

 とは言え、流石『絶対回避』を謳うだけあり、『怪物』の腕を躱す体勢をとっていた。


 その瞬間、織乃宮紫慧が星海燕に触れ、姿を現したのだ。

 状況が分からない織乃宮紫慧にしてみれば、気が気でなく――痺れを切らして、星海燕に触れ、実体化したのだ。


 しかし、その実体化した位置が悪かった。

 その位置には、『怪物』の拳が迫っていたのだ。

 目の前に迫る『怪物』の拳に、気が付いた織乃宮紫慧。


 その手が触れるか触れないかの瞬間――。


 弾き飛ばされたのは、星海燕であった。

 物凄い速さで、織乃宮紫慧を庇い、その上、躱そうとしたのだが、躱し切れず、『怪物』の拳に接触してしまったのだ。

 接触しただけなので、ダイレクトなダメージは無いものの、それでも、人間を弾き飛ばす程の威力があった様だ。


“「――っ!!星海さんっ!!」”

 そう叫ぶも、星海燕が弾き飛ばされた為、その身体から離れた、織乃宮紫慧の姿は消えてしまっていた。


 そして、弾き飛ばされた星海燕は、無残にも、プラットホームを人形の様に転がり、支柱に衝突して、その動きを止めた。

 全身に次々と感じる物凄い衝撃と、激しい音。

 そして――回復した筈の視界がぼやけて見えるのは、眼鏡が飛ばされて何処かへ行った所為だと――分かった頃には、その意識を失っていた。


 そんな、動かない星海燕の元へ、仕留めた獲物を追い詰める様に、『怪物』はゆっくりと歩みを進める。


 電車の乗降口が、静かに閉まった――。

 ゆっくりと、電車が動き出す。

 そして、電車は駅から離れ、その姿が見えなくなっていく。


 しかし、プラットホームに居る者達は、そんな事等、気にもしていなかった。


“「――星海さん!!」”

……やっと、織乃宮紫慧が姿を現した。


 そこに見えた光景は――。

 それは――有ってはならない事であった。

 織乃宮紫慧の目に映った――それは、絶対に有ってはならない事なのだ。


 それを目にした織乃宮紫慧の思考は、止まる――。

 僅かな時間――何かを呟いているのが、聞こえた。

 それは、織乃宮紫慧の声――。

 それは、こんな事態を容認した――理への呪詛の言葉。


 そして――。


 織乃宮紫慧の、物凄い声が響き渡った。

 空間が歪む咆哮は――普段の愛する者に対する声とは全く別の、悲鳴と怒号等、負の感情が入り混じった、地獄の声。

 周囲は一気に、恐怖が渦巻く。


 それは、『怪物』の歩みさえも止めた。


「――お前ガぁぁァ!!」

 織乃宮紫慧は、見た事も無い、狂気の表情になり、視線だけで『怪物』を射抜く様な目で睨んだ。


 その途端――物凄い爆発が起きた。

 それは『怪物』の長い片脚から始まり、四肢の皮膚を抉ぐるが如く、次々と爆発し、その皮膚を奪っていく。

『怪物』はその長い両腕を捩りながら、その爆発から身を守ろうとするも、そんな事等御構い無しに、爆発は次々と繰り返され、皮膚は抉られていく。

 堪らず、腕を伸ばして、織乃宮紫慧を掴もうとする『怪物』だったが、反撃どころか、それさえも爆発によって阻止され、その指が飛び散った。


「――消えぇェロォ!!消えテシまぇェ!!」

 もう、星海燕に見せる笑顔も、怒った顔も、その顔に面影等無かった。

 その口から発せられる言葉には、狂気と暗黒、そして、絶対なる恐怖が支配していた。


『怪物』の顔半分が飛び散った時、誰かが、織乃宮紫慧の手を掴んだ。


「……もう……やめて……」

――それは、星海燕であった。

 全身に大きなダメージを受けた後で、体の一部分を動かすのでさえ、激痛を伴うであろうに、その手は、しっかりと握っていた。


 絶え間無く続いていた爆発が――止まった。


 今迄、手も足も出せなかった『怪物』であったが、それを皮切りに動きを見せた。

 その殆どを抉られたにも拘らず、その四肢に力を入れると、爆発で焼かれた部分が裂け、液体が周囲に飛び散った。

――軋む音が聞こえる。

 それは、損傷した箇所の多さを物語っていた。

 そして、バネが跳ね上がる様な跳躍で、宙へと舞った。

 その大きな体には似合わないような跳躍は、とても、負傷した者のそれとは思えない。

 素早く、屋根へと上がり、更に大きな跳躍しながら、その場を離れていく。


 そんな中、星海燕のポケットが僅かに輝き、物凄い速さで、何かが飛び出した。

 そして、それは『怪物』の後を追うように、飛び去っていった。


 しかし、今やそんな事等どうでも良い織乃宮紫慧は、星海燕を抱き抱える様にして――抱きしめた。

「……良かった……」


 その声に、星海燕は癒される。

 先程迄とは違い、それは、優しく包み込む者の声であった。






 怪我の状態は、決して良いものとは言えなかったが、星海燕にとって、この程度の怪我は問題が無い。


 何しろ、任務に就けば、このような怪我は当たり前であり、星海燕自身、様々な武術や武道の心得として、回復法等にも精通している。


 しかし、そんな星海燕に苦言を呈し、それは、織乃宮紫慧によって行われた。


「ほっんっとに、反省してくださいねっ!」

 背後から抱き締められながら、星海燕の顔を見上げて、叱る織乃宮紫慧。


 何故、こんな状況下で、こんなイチャラブみたいな事をしているかというと――。

 織乃宮紫慧は、先に説明したように、存在事態、この世には有り得ない存在である。

 星海燕に触れて、自動錬成によって、その姿を形作り、触れている間であれば、織乃宮紫慧の力が星海燕の居る世界でも発揮可能である。

 もし、より強い力を必要とした時、若しくは、製作した物を維持し続けるという場合、より一層、星海燕に深く密着する事が必要であり、負傷した星海燕を回復させるには、密着度を更に深めなくてはいけない――というのが、織乃宮紫慧の弁である。

 つまりは、怪我を治す為には、愛する者同士がするようなスキンシップをしなくてはいけないという事である。

 何処までが本当かは分からないが……。


 現時点で、異論を唱える立場でも無い星海燕は、言われるがままにするしか無かった。


 そう考えると、イェンの存在を創り出した際は、どんな要求を提示されたかが、気になるところであるが、それを言及するのは無粋でもあり、想像の及ばないところにある気がする。


 一先ず、眼鏡を失った事で不便である為、床に転がっていた無残な眼鏡を、直して貰ったのだか、その際、要求されたのが、現在のこのイチャラブ体勢であり、更に回復を行う為に、この体勢を維持する事で、何とか妥協して貰った。

 この、微妙に居心地の良い様な悪い様な体勢を、星海燕は容認せざるを得なく、現在も、苦笑を浮かべつつ、織乃宮紫慧の尻に敷かれているのであった。


 星海燕は頭の中を整理する。

 電車で帰路の最中に、何故か、異世界へ向かってしまっていたという事。

 そして、強い光と共に現れた、背の高い女性に襲われた事。

 現在は、古い駅に居て、電車は何時の間にか出発してしまったという事……。

 そこ迄の思考に至って、ふと、或る事を思い出し、慌てる様に、織乃宮紫慧へ質問を投げ掛ける。

「――そう言えば、南條さんはっ?」


 その言葉に、少し、怪訝そうな顔をして、織乃宮紫慧は答えた。

「……あの『病気持ち』は、どっかに逃げて行きましたよ……」

 この2人だけの空間に、他の女を心配している事が、気に食わないらしい。


「……『病気持ち』?……そんな言い方は良くないよ」

 余りにも事実無根な暴言に、叱る様な口調になる。


 そんな星海燕に、「だって、事実だもん」と呟きながら、口を尖らせる織乃宮紫慧。


「体が弱くて、病気をしがちだとしても、そういう言い方は良くないよ」

 悪怯れもせずにそんな事を言う織乃宮紫慧に、星海燕の口調も少し強くなる。


「……そういう事じゃなくて……電車の中でも言いましたけど――」

「――そういう事じゃなかったら、どういう訳……『電車の中』?」

 つい、織乃宮紫慧の言葉を遮って、反論しようとしてしまった星海燕であったが、それは疑問へと収束した。


「そうですよ。紫慧はちゃんと言いましたよ。『覚醒転生者』だって」


「ああ、そういえば、そんな事、言っていたよね……ところで『覚醒転生者』って何?」

 何と無く理解出来そうではあるが、聞き慣れない言葉なので、星海燕は訊いてみる事にした。


 知ったか振りが、後々、痛い目を見る。

 当たり前の事だが、人間社会において、これで失敗する事は多い。

 当たり前だからこそ、軽視して、失敗するのだ。


「人間が『魂』と呼んでいる、情報とエネルギーの集合体は、それによって、何の存在であるかが決まるんですけど、稀に、本来の『魂』を偽って生まれ、存在する者が居るんです。あの女がそうなんです」

 要は、本来は別な存在で生まれる筈が、人間として生まれたという事である。


「大抵の場合、生まれたままの存在で死を迎えるんですけど、何かの影響で覚醒して、ああやって、本来の存在に変化する事もあるんです。これも、稀ですけどね」

 南條優奈は、あの『怪物』が本来の姿だと、言うのである。

 とても、信じられない話である。


「南條さんが、本当に、その『覚醒転生者』なの?」

 星海燕は、南條優奈が光っているところを見ていない。

 だから、そんな荒唐無稽な話を理解するのは、難しいのであろう。


「そうですよ。星海さん、闘ってたじゃないですか」

 織乃宮紫慧にそう言われて、始め、何の事かピンとこなかったらしく、少し考えて、驚く星海燕。

「――っ!!ええっ⁈あの背の高い女性が⁈」


 やっぱりと言わんばかりに溜息を吐く織乃宮紫慧。

「そうですよ。……よりによって、厄介な存在が、『覚醒転生』してましたし」


「……『厄介な存在』?」


「ええ。人間が『神』と崇める存在だった『怪物』ですよ」


「……『だった』?『怪物』?」


「そうですよ。元々、人間だったのを、無理矢理、神にした存在で、結果、『闇堕ち【やみおち】』した所為で、穢れた『怪物』になったんですよ。そうなれば、後は、災厄を振り撒いて、死ぬだけです」


「『神様にした存在』?『闇堕ち』?」


「まあ、神なんてのは、『怪物』だった存在を人間が崇める事で、『神格』を持っただけの存在なんですよ。……ただ、あの『怪物』については、ちょっとだけ特別なんですよね。……あの『怪物』は、元は『人造神【じんぞうしん】』という存在です。人間達には、『八尺様【はっしゃくさま】』と呼ばれていますけど……。昔は、厄災から守る・田畑の豊穣・村の繁栄と、様々な理由で、人間を媒体にして、神を創り出したんです。その方法としては、人間の子供を外界から隔離し、『神』と崇め、短命のその子供を死ぬ迄閉じ込めるんです。こうして『人造神』の出来るんです。それで、ここからが厄介な点なんですけど――あの『元人造神の怪物』は穢れた為に『神の病』にかかっているんですよ。――それが、『闇堕ち』です。厄災を振り撒き、最後は周囲を巻き込んで、爆弾の如く消滅します。……あの『元人造神の怪物』は、人間の信仰心を失っている為、『神』としての力は失われていますが、『闇堕ち』で、厄災としての力は持っていますよ。その上、あの『元人造神の怪物』は、『鬼化【おになり】』にも成っていますから、『神の病』としては、最悪でしょうね」

 すらすらと講義する織乃宮紫慧に、星海燕はついていくのが、やっとではあったが、『鬼化』以外は、理解した。


「『鬼化』って何?」

 当然、星海燕は質問をする。


「別の存在が、怨念・悲痛・恐怖といった負のエネルギーによって、鬼になる事です」

 そして、織乃宮紫慧はこう付け加えた。

「あの『元人造神の怪物』が、『鬼化』だから、異界へと引き込まれたんですよ。こんな辺鄙な場所、『きさらぎ』へ……」

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