間幕 ビジネスモラル『報・連・相』

 転校初日を終え、用意された仮家かりいえに帰ってきたほしつばめは、その居間いまにて、おのれぞくする組織へのてい連絡れんらくをしていた。


あいわらず、たいうららないですね。つばめさんは」

 スマートフォンのスピーカーしに、みつ組織『しゅ者の見えざる手』代表とりしまりやくれいは楽しそうに笑っていた。


「……笑い事じゃないですよ。転校初日からだいこくなんて……」

 今日の出来事を思い出しながら、ほしつばめこまった様子で返した。

「初日から、目立ちまくりです」

 まるでぎゃくネタでもしゃべるかの様に、そう付け加えると、彼は大きく溜息ためいきを付いた。


 片道約20分の距離を、2時間の余裕よゆうを持たせて登校したはずだったが、しきみや紫慧しえしっあふれた――あのリア充さながらのり取りの後、歩き出した方向おんほしつばめは、道に迷ったのである。

『全知の錬金術師』ことしきみや紫慧しえたよるも――『何故なぜか』なかなか辿たどけず……。

 そんなすえに、やっと到着とうちゃくたしたころには、5時限目が終わりかけていたのだ。


「それでどうですか?何か感じました?」

 ほしつばめしんきょうづかってか、れいは本題に入る。


 ほしつばめの横には、彼の腕にしっかりとしがみつくしきみや紫慧しえたが、かれの会話にはきょうがないかの様に幸せそうな笑顔で、彼の腕にほおり付けている。


「はっきり言って、よくわからなかったです」

 よく、パワースポットへ行くと、何らかの不思議な感覚にとらわれるというが、校内に入っても、何も感じなかったのだ。


「それは良かった〜」


 れいの反応に、意味が分からず、「どういう事ですか?」とたずねた。


簡単かんたんに言えば、龍脈りゅうみゃくのエネルギーを人間がびる事たいに、危険の可能性もあるからですよ。……例えば、パワースポットって言うのは、基本的には、大地を流れる龍脈りゅうみゃくのエネルギーが、てきに、地上にれ出している場所で――まあ、一概いちがいには言えないんですけどね。……でも、その『てき』ってどのくらいなんでしょうね?どんな人間にも、えいきょうだけをあたえるのでしょうか?そもそも、人間は普段から様々なエネルギーにさらされています。そこに新たな別のエネルギーをびて、どうえいきょうするのかなんて、個人差が出て当たり前なんですよ。それに、同じ物を口にしているのにも関わらず、せている人もいれば、太る人もいて、変わらない人もいるでしょう?それは体質だったり、外的がいてき要因よういんだったり、その他の要因よういんだってあるのに、どんな人間にも、当てはまると考えるのは、危険だと思いませんか?――それならば、そんなエネルギーは初めかられない様にした方が、安全だと思いませんか?……それだからこそ、げんじょうでそれを感じないってのは、良い事なんですよ。前任者が、しっかりと対処たいしょしてたおかげでしょうね〜。感心っ感心っと!」


 龍脈りゅうみゃくのエネルギーがれているじょうたいであるところの『龍脈りゅうみゃくれつ』が、現時点で、『県立西峰第二高等学校』できていないのは、かいした。しかし、パワースポットでもないこの場所に、何故なぜ、前任者がつづけたのであろうか?

 そんな疑問を持ちながら、ほしつばめは、れいの言葉の中にあった、さらに気になる単語を口にした。

「?対処たいしょ……ですか?」


「ええ。対処たいしょ――まあ、『結界けっかい』みたいなものかもしれませんね……確認かくにんですけど」


「えっ?結界けっかいがあったんですか?」

 わたされた書類にはさいされていなかった事を言われ、めんらうほしつばめ

――そうとなれば、話は見えてくる。

 つまり、『県立西峰第二高等学校という場所は、現在も、龍脈りゅうみゃくれつじょうたいが続いたまま、それを結界けっかいのようなものでふさいでいるだけ』という推論すいろんに行きく。


「まあ、それも、推論すいろんはんちゅうでしかないですけどね。……そのために、つばめさんには、高校生に化けてもらったんですからねぇ」

 話の後半は、何処どことなく楽しそうに答えたれい


 それにしても、もし、推論すいろんが正しければ、県立西峰第二高等学校という場所は、大変危険なじょうたいにある事になる。

 過去に、龍脈りゅうみゃくれつにより、へんきたのであろう。

 その土地の者達は、結界けっかいのような方法でしずめるも、所詮しょせんおうきゅう措置そちでしかない事を知っていた――だからこそ、役目を持った者達によって、現在まで、それを守り続けてきたのである。

 何とか均衡きんこうたもってきたとはいえ、龍脈りゅうみゃくれつが完全治癒ちゆしていない状態である限り、いつ、龍脈りゅうみゃくのエネルギーがれつよりき出してもおかしくない。

 たとえるならば、『あないたホースをビニールテープであてりしてしゅうし、使用している』じょうたいであり、『水があなから、いつ、き出してもおかしくない』じょうたいなのだ。


 そんなじょうたいの場所へ、じょうほううすで任務に就かせる――れいゆうたいは、軽薄けいはくとも思われるが、ほしつばめしきみや紫慧しえ信頼しんらいしているあらわれでもある。


「前任者のかたには、どうしても、お会いする事は出来ないんですか?」


 その問いに、れいは答える。

「現在、しきめいの重体らしいですよ……まあ、しきもどっても、立場上、会ってはくれないでしょうけどね」


 こういった役目を持つ者は、代々だいだいこと知れず、ひと知れず』がつねであり、知られる事をきらう。知られる事で、悪用まで無いとしても、利用しようとする者が出て来るからである。


 さらに、れいかたる。

ぶんですけど、『財団ざいだん』は何らかの情報をつかんで、近づこうとしたんでしょうね。だか、という確認かくにんの存在の妨害ぼうがいにより、それ以上近づく事が出来ず……たよった――ってとこですかね」


「『専門せんもん』?」


色々いろいろるでしょう?……まあ、僕も『同じあなむじな』ですけど」


 つまりは、『財団ざいだん』おかかえの様々な術者達の事である。

 確かに、異常なモノ達と相対あいたいするのであれば、当たり前の事であろう。


 ほしつばめも、『財団ざいだん』については、少し知ってはいたが――優秀な科学者達と、強力な武装した戦闘兵達やエージェント達くらいしかない組織と思っていた。

 優秀な科学者達にとっては、『様々な術者の術自体じたい、科学の範囲内』といったところであろう。


「そして、前任者と本格的に戦闘になり――『財団ざいだん』側は目的かなわず、しかし、前任者もただではまなかった。……まあ、共倒れしてしまったんでしょう。……とは言え、はたから見たら、これじゃあ、まるで悪役ですからね。『せいせん』が起きてもおかしくない。……バツが悪いもんだから、おん便びんますために、こっちに、後始末が回ってきたと……全く、迷惑な話ですよ」

 れいは、いきいた。


 ここで言う『聖戦せいせん』とは――他の組織や団体などが、に対して、『正義』の名の元にしゅくせいを与えるという意味だ。それぞれの目的・ねんを持つ組織や団体にとって、巨大組織『ざいだん』の不義ふぎは、格好かっこうの的となる。


大体だいたいにして、情報のかいくらいしてほしいもんですよ……場所をしめした地図と『りゅうみゃくれつおそれがる為、きゅうかわれたし』のでんれいのみで、しょうさいに関してはだんまり決め込みやがってッ!――ッたくっ、送り出すこっちの身にもなれってんだ……」

 普段はポーカーフェイスをっているれいが、めずらしくいらちを口にしている。


 話の内容からすると、どうやら、あの書類のたばの情報のほとんどが、後から『しゅしゃの見えざる手』がどくに調べたものであるらしい。


「……ああっ、すいませんね。つばめさん。組織の長たるかくの無い発言でした」

 ほしつばめしゃざいするれい


「いえ、そんな事ないです。お気になさらずに」

 そう返すほしつばめ


「僕としても本当に心苦しいんですけど、後は、つばめさんとちゃんに、大した情報もなしに、調ちょうかんをお願いするしかないんです」


「分かりました。出来るかぎりやってみます」


「後から、体制を整えますので、よろしくお願いしますね」


 その『えん』が、まさか、「あたシぃ〜もぉ、すばァるンとぉ〜、がぁっこォ〜、いィきぃタぁ〜いぃィ〜」と駄々だだねた清衣すいの事である――とは、ほしつばめ微塵みじんも気付いていない。

 れい相当そうとうわせ者である。


「ああ、それと、今回の件が終わったら、こっちの『本社』にも、顔を出して下さいね。何しろ、つばめさんは、ファンが多いから……」


 愛想あいそう笑いの様な苦笑をするほしつばめ

「はい、わかりました」


「……まあ、一番のファンは、僕なんですけどねぇ」


「えっ?」


ブツッ……ツゥーツゥーツゥーッ


――電話は切れてしまっていた。


 じょうだん好きのれいの事だから、ワザと、こんなえんしゅつてに通話を切ったのだろうな――と、ふたたび苦笑するほしつばめ


 横には、幸せそうな――さきほどと変わらない笑顔の――しきみやの姿があった。






 さて、場面が変わり――東京。

 ひっそりと地下にきょてんかまえる『しゅ者の見えざる手』の本部基地内では、けいほうひびいている。


「――何事ですかっ‼︎」

 そう言って、代表とりしまりやく室に飛び込んできたのは、秘書のルシィ=アルベールであった。


 銀髪シルバーヘアがよく似合う長い髪をしっかりとまとめ、キリッとしたグレーのひとみの色と顔立ちも整った、スタイルもスレンダーながらも、女性らしさも持ち合わせて、なんとも魅力的な女性である。その、秘書に相応ふさわしい大人おとなの女性のスーツ姿に、世の男性のほとんどがメロメロになるであろう。


 そんな、普段から冷静を絵に描いたような――秘書があわてているのは、その警報の、異常を示す場所が、代表とりしまりやく室であったからである。


 ルシィ=アルベールの視線先には、れいの姿があったが、ビジュアル系ロックバンドらしさがあふれている服は、あちこちがげた後があり、まだ少し、火種ひだねくすぶっている。


「いやぁ〜、なんかねぇ〜、急に辺り一面、次々と爆発してねぇ〜」

 悪戯いたずらがバレた子供の様に、半笑いで、頭をいている。


 そんなれいの言い訳に、いきく秘書。

ほしさんにお電話されていたと記憶きおくしてましたが……回線が突如とつじょ切れたので、何かと思えば、爆発ですか?」


「そうなんだよ〜。本当、何が何やら――」


「――だまらっしゃいっ!!何が原因かを知っていて、誤魔化ごまかそうとするのは、いい大人おとなのする事じゃありませんっ!」

 そのグレーのひとみが、冷たくれいを見る。

しきみやさんの逆鱗げきりんれる様な事を言ったのでしょう?」


「いや、そのさぁ〜、ここに、たまにはおいでよって言っただけなんだってぇ〜」


「……その後は?」


「えっ?……その後って?」


誤魔化ごまかそうとするなと、先程さきほどげたはずです……」


 その怒りの視線しせんに、口籠くちごもれい

「……知っていて、くのは、反則じゃん……」


 すると、また一喝いっかつが飛ぶ。

「――だまらっしゃいっ!!子供じみた事ばかりする代表とりしまりやくの指導を、何故なぜ、秘書である私がしなくてはいけないんですかっ⁈」


「……しなきゃいいじゃん……」

 そうつぶやいたれいを、にらむルシィ=アルベール。

ばつとして、このあとかた付けは、ご自身のみでなさるように」


 しきみやの仕業である――爆発で、代表とりしまりやく室内はめちゃくちゃにされながらも、それを最小限におさえた、れいの術は評価にあたいするが、そんな事は、他人にも自分にもきびしい秘書の前では、通じなかった。


 サッと身をひるがえすと、惨事さんじから出ていく。


 すると、けたたましく鳴っていた警報は消える。


 ルシィ=アルベールが秘書室から対応し、全スタッフへの安全確保の連絡、各エリアの安全の確認の手配等、通達済みであろう。

 叱言の後の素早い対応は、流石さすがである。


「……なんで、こうも、おっかない女性ばかりなんだろうねぇ〜」

 玲汰は、頭を再度掻きながら、ひっくり返った肘掛け椅子を元あった場所へ戻し、ボロボロになったそれに座ると、大きく溜め息を吐き、苦笑するのであった。






 一方、星海燕の所では、玲汰との通話後、一向に離れようとしない織乃宮紫慧に、少し困っていた。

 何しろ、制服を脱ぎたくても、くっ付かれては脱げない。

 このところの不機嫌さが、少しでも良好に繋がるならと、愚痴をいくらでも聞く心算でいた星海燕であったが、今の織乃宮紫慧の機嫌はすこぶる良いようだ。


「……ねえ、紫慧さん?」


「はい。なんですか?」


「着替えたいんだけど……」


「お手伝いします」

 満面の笑顔で星海燕を見る、織乃宮紫慧。


「…………」

 困り果て、溜め息を吐く星海燕。


 そんな様子を見ながらも、笑顔を変えない織乃宮紫慧であった――が。

“……ちっ、あの軽薄男、死ななかったか……流石、腐っても、一つの組織を担う、超一流の符術師ってところか。……まあ、どうでも良いけどね”

――そんな心の内を笑顔で隠しながら……。

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