第26話 夏に向かって歩く

 むっとする南風。とても強い向かい風。風が熱い。そして埃っぽい。

 僕は灌木の茂みを歩いている。枯れ葉、枯れ枝が空中に舞い上がり、砂埃と一緒に吹きつけてくる。

 僕は両方の二の腕を顔の前で合わせてそれを防ぐ。

 こんなに強い南風って春一番なのか。春一番ってこんなに熱がこもった風だったろうか。

 一段と強い風が来た。前へ進めない。木の葉や枝が二の腕に当たって痛い。

 僕はどこに行こうとしているのか。

 春一番なら今は春なのか。いや、それにしては暑すぎる。夏が近い。そんな気配がする。

 ならば、夏に向かって歩いているのか。

 夏なのか。

 熱い塊が向こうにある気がする。

 熱い塊。灼熱の塊。そこに向かっている。

 そこに近づけば、一瞬にして僕の身体は灰になる。

 火葬場のひんやりと静かなロビーが目に浮かんだ。


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