第29話 華

 空中に華が咲いている。細かい花弁の丸い華が。

 手を伸ばすが触れることができない。

 僕は虚空を漂っている。華は上下左右に無数に咲いている。

 人を愛したことがあったか?愛せたか?幸せにできたか?自分は生きて何をした?生きる価値はあったか?

 時空が崩れ落ちていく。天空も大地も大海も大きな渦となって混じりあう。過去も現在も未来も混じり合う。その渦は大きく早くなっていく。

 僕は渦の中にいる。華は小さな火花のように散っていく。散ったあとに華は咲く。渦の中に花びらを散らしそして咲く。

 誰かを喜ばせたかった。喜んでもらいたかった。華。

 もう遅いなあ。遅かったなあ。

 もし華を咲かせられたら世界が開けたかもしれない。でも華を開かせることはできなかった。世界は開かなかった。世界は薄暗闇に閉ざされたままだ。

 そして老いて衰えていく。

 僕の身体は華に変わることはできないのだろうか。せめて死を迎えたらそうなれないだろうか。

 華が咲いている。空中に渦の中に無数に咲いている。

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