第28話 蝙蝠は燃えて光になる
雑木林の横の空地で町内の花火大会があった。花火大会と言ったって、市販の花火を使うだけだ。小さな打ち上げ花火もあったけど。
陽が落ちてきた。ぞろぞろと人が集まる。
子供たちが手に花火を持つ。大人が火をつける。
空が動いた。大きな黒い渦が瞬間瞬間形を変えながら渦を巻いていた。
鳥?
一つの黒い点が渦から離れて飛んできた。
よたよた。そんな風に見えた。
鳥じゃないような気がする。羽がうにゃうにゃと動いている。何だか手のように見える。
あ、蝙蝠だ。
じゃああの渦は蝙蝠の群れなのか。
蝙蝠がうねりながら、くねりながら、渦を巻いている。
僕は渦に巻き込まれて空中を昇っていく。
馬鹿な餓鬼どもが顔を上向きにしてこちらを眺めている。今日はやけにいっぱいいやがる。ここは普段の夕方にはほとんど人間などいないのに。
顔の横で火花が散った。あちっ。打ち上げ花火だ。あほ面して笑って見上げていやがる。
僕は蝙蝠の渦の中で必死に腕を振る。
渦の先頭がぱっと輝いた。瞬間。火の渦になった。
僕の身体は無数の火花になって空中に散華する。光の光景が見える。世界に光が満ちていく。
そうだ。世界は光に満ちているんだ。光を感じなくなって、光を見失って、僕は何をしてきたんだろう。
最後の打ち上げ花火が空に拡がって消えていく。
さて帰ろうか。
明日は少しでも光がありますように。
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