第31話 種
爆発する。膨れ上がり、どこまでも拡がっていく。
僕の家の小さな庭に小さな渋柿の木があった。幼い頃渋柿のへたのところを切り取って、焼酎を脱脂綿に含ませて塗りビニール袋に入れて箪笥の引き出しに入れていた。しばらく置いておくと渋みはなくなり、甘くなる。でも、果肉は柔らかくなってしまい、僕は嫌いだった。
けど、食べ終わって残る柿の種は好きだった。つるつるした感触が気持ち良かった。光沢も好きだ。
手のひらの種を人指指で撫でていた。するっと僕の体は種の中に入った。
龍が空に昇っていく。虎が咆哮している。虎は龍に飛びかかる。龍は虎を相手にせず空を登り続ける。僕の脚にに白い根が絡み付いてくる。手で引きちぎる。青臭い匂いが立ち込める。
だんだん熱くなってくる。地球が見える。死んだ祖父母、父母、妹、仲の良かった数少ない友人が漂っている。
草が萌え春が来る。蝉が鳴き夏が来る。銀杏が色づき秋が来る。木枯らしが吹き冬が来る。
白い根は僕の体の中に拡がっていく。
僕は柿の木になる。
口の中につるりとしたものがある。
種。
この種から僕が生まれるんだろうか。
僕は何をしてきたのか。何をしようとするのか。
もういいや。僕は柿の木になったのだ。
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