第13話 球
音はない。僕は目を閉じているのだろうか。開いているのだろうか。光の中にいるようだ。
体が幽かに火照ってきているようだ。
この光は球であることはわかっている。ときどき僕はこの中に入る気がする。幼い頃はよく入っていた気がする。あの頃はどこに行ってしまったんだ。僕は、僕は一体どうしてしまったんだ。何もかもわからなくなってしまった。僕の体と光の球の境目はどこなのだろう。
幼い息子と娘を連れて釣りに行った。突然、その光景が浮かんでくる。涙が流れる。僕は駄目な父親だ。いや、駄目な人間だ。誰も幸せにできなかった。自分が何をすればいいのかもわからなかった。光の中で体が回る。
幼い息子と娘が笑ってくれている。ごめんね、ごめんね。笑顔が胸に突き刺さる。痛い。
光の中で体が回る。紋白蝶の群れ。入り交じって飛んでいる。そんな光景を見たことを思い出す。
あれはいつ頃のことだろう。
いろんなことが曖昧になっていく。
僕自身が曖昧だったんだ。産まれてからずっと。だって、何が残っている?何もありはしない。
光の中で回る、回る、ゆっくりと。
指先が光の中に溶けていく。体なんてもともと無かったんだ。あると思っていただけだ。もともと光の球だったんだ。光の球に入ったんじゃない。もとの形になっただけなんだ。
光の中に溶け込んでいくのじゃない。もとの姿に戻るだけ。あると思っていただけの体が、本来の光になるだけ。
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