第8話 花火
波が岸壁にうちつけている。海はのたうち回っている。あんたが落ちたらあたしが飛び込むと母が言う。
花火がうち上がる。周りが見える。僕は岸壁から海を覗き込む。
落ちたらどうなるのだろう。落ちてみたい。
僕の体は手足が千切れそうに海水に振り回される。岩や岸壁にぶつかる。頭が岩に当たると、きな臭いがする。花火が上がると見上げる水面が明るくなる。
花火が眼下に拡がる。拡がったあとに、ぼんという。僕は風に煽られ空を昇って行く。火花が顔をかすめる。
目の下の花火。海に映る花火。
線香花火が好きだった。眩しいくらいの小さな火球。その回りにぱちぱちと小さな閃光が走る。
僕は火球の中に入る。その中には、のたうち回る海もある。母親の顔が見える。僕はこれまで何をやってきたのだろう。愚か。みんなごめんね。さよなら。
火球はぽつっと地面に落ちる。
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